第9話 転入生と茶碗蒸し
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「皆さん、おはようございます。春休みも昨日で終わって、今日から新しい学年ですね…」
先生が黒板前で朝のホームルームをこなしている間、高町なのは先程までの上機嫌から打って変って、少し不機嫌そうだった。
今日から学校が始まり、新しい事や楽しい事が始まると思っていたし、何より親友であるアリサやすずかとまた一緒になれるはずだった。
しかし実際会ってみると、アリサとすずかは自分の知らない事で盛り上がっている。しかも、自分の兄までもがそれを知っているというのに、自分だけが知らない。まるで自分だけが取り残されたように感じてしまい、拗ねてしまったのだ。
――――転校生さんに、ちょっとお話しないとなの
自分は会ってもいない、けれども親友たちは知っているという顔も知らない転校生に悪態をつく。
悪いのは隠し事をしていた親友や兄なのだろうが、知っている顔より知らない人の方が責めやすいものである。
「……それでは皆さんに新しいお友達を――」
と、その噂の転入生が入ってくるようだ。先生が入室を促す声が聞こえたので、なのはも深みにはまり込んでいた思考を止め、転校生を見ようと顔をあげた。
ガラッ、という音がして教室の前の扉が開く。コツコツと教室の前中央まで転校生らしい男の子が歩いてきて、こちらを向く。
「じゃあ、自己紹介をお願いしますね」
「ん……。鳥居、純吾」
彼を見て、良く分からない、というのがなのはの第一印象だった。
なのはよりも他の同級生よりも高い身長。ちょっとぼさっとして、片目にかかるまで伸びた髪。
そして不機嫌そうな、けど眠たそうに細められた眼と一直線に結ばれた口。
一見無神経、無感情そうな、強面で危なげな見た目。驚くほど短かかった自己紹介も、その外面の怖さに拍車をかけていた。
けれどもじ〜っ、と彼を見てみると、そのイメージを違うんじゃないかなぁ、となのはは思いなおす事にした。
だって、眠たそうな目はクラスを興味深そうにきょろきょろしているし、面長な顔の頬は少し緊張で上気しているのだから。
実はただ緊張しているだけで、さっきの短い自己紹介もそれが原因なんじゃないかと思ってしまう。
それに、きょろきょろとした視線が今何かを探し当てたかのように止まってからの事。
そこは彼から見てなのはの左少し後ろ、すずかが座っている席だ。目に見えて彼から緊張の色が消えて、代わりにふにゃっとしたやわらかい雰囲気になったのだ。
表情はあんまり変わっていないのに、ここまで雰囲気が変わったことが分かるなんて、ある意味すごい才能なんじゃないかと益のない事を考えてしまう。
そんな風に彼を見ていると、さっきまでの不機嫌がいつの間にかおさまっているのに気付き、
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