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木の葉芽吹きて大樹為す
萌芽時代・出逢い編<中編>
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くれた猫が纏わりついていた。

「いや……。大した事じゃない。それより商品を見せてくれないか」

 弟君の聞き捨てならない発言とかあったような気がしたけれども、取り敢えず頭から振り払っておく。
 何処か愉しそうな弟君と一緒に店主のお姉さんが持って来た箱の中を覗き込んだ。

「簪に、爪紅……耳飾りから首飾りに至るまで、取り敢えずお目に適いそうな物を片端から持って来たんだけどね」
「凄いな……。色々あり過ぎて目移りしてしまう」

 お姉さんが持って来てくれたのは、素晴らしい一品ばかりだった。
 珊瑚の玉飾りや、掌サイズの貝の中に入った鮮やかな紅。
 優美な曲線を描く金の髪留めに、繊細な作りの花を模した耳飾り。
 どれもこれも年頃の女の子が喜びそうな物だ。

 とても決め切れないとばかりにお姉さんを伺うと、楽しそうに含み笑いをしながら、お姉さんは指先で数点の品物を指し示してくれた。

「そうだね……。贈り物をする相手が年上の女なら、こういった鮮やかな紅がおすすめだね。ところで、誰にあげるんだい?」
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました」

 この間出来たばかりの清楚可憐な妹の姿を脳裏に思い浮かべて、私は破顔する。
 なんせ、私は新しく出来た妹を老若男女問わずに誰かに自慢しまくりたいのだ。

「ミトって名前の可愛い女の子だよ! 妹なんだ! もー、それが可愛くて可愛くて」

 あの可愛さは言葉で簡単に表現出来る様な物じゃないんだよね!
 でも自慢したい、そんな複雑な兄心……あ、違った姉心か。

「そ、そうかい」

 なんかそれまで悠然とした態度を崩さなかったお姉さんが、軽く頬を引き攣らせる。
 なんかしたかな、自分。

「もう滅茶苦茶可愛くて! おかげで毎日癒されまくりです、ほんと!」
「なんか、随分と聞いた話と性格が違うね……」
「んー。よく言われます」

 ここに来る前も猿飛殿に言われたばっかりです。
 別に意識して使い分けている訳じゃないんだけどね、どうにも千手の忍びとして任務をこなしている時と普段の自分とじゃかなり差があるらしい。

 あれま。お隣で弟君が吃驚した様子で黒い目を見開いている。

 任務時の私の姿を知っている人程、普段とのギャップに苦しむらしい。
 この前会った時に、猿飛殿が遠い目をしながらそんな事語ってたな。

「そんな訳で、新しく出来た妹に贈り物をしてあげたいんだよ。巷で流行っている物とかは無いかな、店主殿」
「そうだねぇ。巷でかどうかは分からないけど……うちはの女の子達の間で流行っている物といえば、これかね」

 気を取り直したお姉さんが、細い指先で桐の箱の中から小さな耳飾りを摘み取る。
 揺らめく炎をそのまま固めた様な赤い玉のシンプルな作りの
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