嵐の前
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せぶりな言葉を口にした。
「しかしそれは邪悪の王者だ」
首領を指しているのは言うまでもない。
「それが今伊勢にいるとしたら大変なことです」
「ええ」
伊勢は古来より日本の聖地とされている。その地に首領がいるということはその冒涜だけではない。その力を彼のもの
にされる恐れもあるのだ。
「行きましょう、それで何もなければいいですが」
「あれば」
「戦うだけです」
村雨は強い声で言った。
「そして倒す。それ以外に何がありますか」
「それを聞いて安心しましたよ」
役は彼の言葉を受けて微笑んでそう言った。
「では行きますか。伊勢へ」
「はい」
二人はここで頂上に登った。そしてそこから外を眺めた。
「伊勢はここからだと見えませんね」
「ええ、残念ながら」
だが村雨にも役にも見えていた。そこに潜む悪の影が。
迷うことはなかった。彼等は互いの顔を見て頷き合った。
「行きましょう」
「はい」
それだけで充分であった。二人は天守閣を降りた。そして城を後にするとすぐに伊勢へ向けて発った。
後には爆音だけが残った。それは戦いへと向かうワルキューレの雄叫びにも似ていた。
それを遠くから見る男がいた。三影であった。
「伊勢に来るか。やはりな」
彼は山の上からそれを見ていた。
「ならばいい。俺が思う存分相手をしてやろう」
彼にとってはそれは予想されたことであった。村雨を見ながら懐から煙草を取り出した。
それに火を点ける。そしておもむろに吸った。
吸うと口から離した。口から煙を吐いた。
「ふうう」
美味そうに味わっている。そしてそれを手に村雨から役に視線を移した。
「今度は貴様も相手にしてやろう」
彼は役も標的に入れていた。
「最早容赦はせん」
その目が光った。まるで刃の光であった。
煙草を吸い終えると彼はそれを放り捨てた。天高く飛ぶ。
「フン」
懐から拳銃を取り出す。そしてそれで煙草を撃ち抜いた。
小さな煙草はそれで粉々になった。そして葉を撒き散らしながら落ちていった。
「貴様等もこうしてやろう」
そして彼はその場から姿を消した。後には獣の気だけが残っていた。
嵐の前 完
2004・11・15
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