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故郷は青き星
第五話
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うな表情でじっと彼の口元を見詰める。
 赤ちゃんは相手の顔の中でも口元の動きに注目する傾向があって、その口を大きく動かしてあげると泣いていた事さえ忘れてじっと口元を見続けることがある──あくまでも傾向であって絶対ではない。
「あーう、あーう」
 エルシャンの呼びかけにベオシカも同じように声を出して答える。次第に何故泣いていたのか本人にも分からなくなったようで顔を綻ばせてキャッキャと嬉しそうに声を上げる。
 どうだ? どんなに優れた機能を持っていても兄の愛には適うまいと言わんばかりに育児用ロボットの方を見やる。
 するとロボットの腕に抱かれていたムアリも泣くのを止めて兄と兄に抱かれる姉の姿を円らな瞳で見つめていた。それに応えてエルシャンがムアリに向かって口を大きく動かして「あーう、あーう」と声をかけると、まるで何かを掴もうとする様に手を伸ばしてくる。
 その意図は明らかである『兄ちゃん。私も抱っこして欲しい』と言う心の声がエルシャンには聞こえた様な気がした。
 だが既にエルシャンの腕の中にはベオシカがいる。僅か1歳の赤子とはいえ対するエルシャンも高々6歳の子供に過ぎない。『無理か、俺の妹愛の力を持ってしても無理だと言うのか?』ベオシカを抱く手が震える。
 そんな兄の様子にウークは戸惑っていた。大好きな兄の背中が揺らいでいる。いつも優しく撫でてくれる手が震えている。何だか分からないが押しつぶされそうな不安が襲ってくる。
「ニーチャ、ガンバえ!」
 何を頑張ってもらえば良いのかウーク本人にも分かっていない。だがどんな時も不安を吹き飛ばしてくれる兄を信じて必死に搾り出すように応援の声を上げる。
「ウーク! だが、それでも俺には……俺には……」
 愛する弟の応援。それに応えたい全力を持って応えたい。だがそれでもなお決定的な力不足を埋めることは出来なかった。
「力なきこの兄を軽べ──」
「ニーニー」
「!」
 育児ロボの腕の中から、泣きながらこちらに手を伸ばしている妹たちが自分へと『ニーニー』とはっきり呼びかけたという事実を認識した途端、彼の頭の中を白い光がスパークする。

「男には……男にはやらなければならない時がある!」
 そう呟くエルシャンはまぶしいまでに決意に満ちた男の顔をしていた。
「ムアリを渡して」
 ベオシカを左腕一本で抱き直すと育児用ロボットに指示を出す。
 妹達が言葉らしきものを発したのは初めてだった。それがママでもなくパパでもなく、ニーニーであるなら命を懸けて応える義務がある! 見ていろウーク。この兄の生き様を──
「危険です。ベオシカ様を私が受け取り、エルシャン様がベッドに腰掛けてからお2人をお渡しするべきだと提案します」
「……も、もっともだ」
 冷静すぎる育児ロボットの返答にエルシャンは正気を取
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