第6話 死に顔動画【ニカイア】(2)
[1/6]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「本当に、任せてしまってもよろしかったのですか?」
不満を表情に露わにしたノエルが、一歩前に出て自らの主へと尋ねた。
「……置いていかれちゃったんだから、分かりようもないわね」
月村忍はある方向をずっと見つめたまま、視線を変えることなく自らの従者にそう返した。「……承知いたしました」やはり不満な表情は変えないが、ノエルが一歩後ろへと下がる。
忍達は月村の屋敷の前、その広大な庭の中心に立っていた。
初めは忍だけがそうしていた。リリムが嬉しそうに作戦を説明し、彼らが飛び立っていった後からずっと一人で立ち尽くしていたのだが、それを見とがめたノエルやファリン達が後からやってきて、それからずっとこうしている。
「『なれちゃったから』、か」
口から漏れて出たのは、彼が去り際に忍に向かって言った言葉。
忍も、彼についていきたいと考えた。実の妹の命がかかっているのだ、誰だってそう考えるだろう。だが、それを押しとどめさせたのが、今忍が口にした言葉だった。
人の汚くて、暴力的な面を見てしまう事、そして、敵意を向けられることの怖さ。
『ジュンゴは、そういうのになれちゃったから……』
そう彼は悲しそうに笑いながら言った。すずかと同じような年齢の少年がそう口にした事に、聞いた時は呆然としてしまったが、どうしてそんな事を言ったのか、今なら分かる。
人の汚ない所を見るのは自分だけでいいと、忍達にそんな事へ関わって欲しくないという思い。世界の崩壊を経験し、その中で僅かでも人の変貌を見てしまった彼だから考えた、忍たちへの彼なりの気遣いだったのだろう。
「結局、彼にしっかり話そうとしなかったのが運の尽き、かぁ」
しかし、汚れているのは自分たちも同じだ。むしろ、彼よりもずっと長い間そんな感情に向き合っていたはずなのだが、彼も実感を持ってそう言った事に驚いてしまい、結局置いていかれてしまった。
もし仮に、彼に自分たちの事情を話していたら、こうはならなかっただろう。
最近になって人を信じる事が少しずつ出来るようになったが、長い間人を信頼するという事を忘れていた自分には、人を遠ざける事で様々なしがらみから月村の家を、家族を守ろうとしてきたのだが、今回はそれが裏目にでてしまったようだ。
「そもそも、彼は本当の意味で独りだったんだし、そんなしがらみなんてあるわけないでしょうに。なら、別に彼に知られても良かったでしょうに」
そう過去の自分へと、忍は眉をしかめながら愚痴ってみる。
するとふと、自分が今言った事がとてもいい案ではないかと思えてしまった。初めから人を疑ってかかるのではなくて、こちらから信じようとする事。そんな発想をした事のなかった忍には、それがとても素晴らしい事に思えた。
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ