無印編
第十八話
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わせ、母さんのお腹にうずめていた顔を上げると疑問に満ちた表情で口を開く。
「アルフ、何言ってるの? フェイトって誰? 私はアリシアだよ」
あれ? 何かがおかしいと思ったのは僕だけではないはずだ。アルフさんもそんなバカな、という驚愕に満ちた表情をしていた。
「フェイトこそ何言ってるんだいっ!? フェイトは、フェイトで、私の大好きなご主人様だろうっ!?」
フェイトの言葉が信じられないのか、アルフさんはフェイトちゃんに近づき、肩を握ってフェイトちゃんの名前を何度も呼ぶ。果たして、それがスイッチだったのか、疑問に満ちていた表情はすぐに怯えに彩られた表情に変化した。
「フェイト? ふぇいと、ふぇいと? あ、あ、あ、ああぁぁぁぁぁ。ちがう……ちがう……ちがう。私はフェイトじゃない。にせものじゃない。ごみじゃない。アリシアだ。そうだよ。母さんに嫌われるフェイトじゃない。捨てられるフェイトじゃない。ねえ、そうだよね、母さんっ!」
縋るように僕の母さんに問いかけるフェイトちゃん。さて、これは一体どういうことだろう。僕もアルフさんもノエルさんも、当然、母さんも事情が把握できない。だから、母さんは何も答えられない。だが、答えないという答えはさらに事態を加速させる。
「ねえ、どうして? どうして答えてくれないの? 贋物だから? ゴミだから? ちがう、ちがう、ちがうよ、母さん。私はアリシアだよ。そうだよ、フェイトじゃない、アリシアだ。ねえ、そうでしょ。私はアリシアだよね?」
拙い、とそう思ったのは、彼女の虚空を見つめるような虚ろな瞳を見たからだろうか、あるいは、彼女に瞳に浮かぶ一滴を見たからだろうか。どちらにしても、何も対応しないのはまずいと思った僕は、フェイトちゃんに近づいた。
「そうだね、君はアリシアだ。贋物じゃない。ゴミでもない。ただのアリシアだよ。ねえ、母さん?」
贋物やゴミという言葉が何を意味するか分からない。だが、この場合は、とりあえずの肯定だ。ここで否定すれば、彼女の精神は確実に不安定のまま固定されてしまうだろう。今は、とりあえず、この不安定な状態を脱出するためにも彼女の言うことを肯定するしか選択肢はなかった。そして、それは僕だけでは力不足であり、最後の一押しには母さんの言葉が必要だった。
「ええ、そうね。アリシア」
アリシア―――その言葉も分からない。だが、母さんは僕のアイコンタクトが通じたのか、彼女が望む名前を呼んでくれた。そして、それを聞いたフェイトちゃんは安堵の表情が広がり、先ほどの虚空を見つめるような瞳ではなく、力強さが戻ってきていた。
「さあ、まだ疲れているんだから寝ましょうね」
「はい、母さん」
母さんも先ほどの彼女の行動に何かを感じたのか、今は寝ること
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