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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十八話 新城直衛の晩餐
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子は卑劣な行動をとるほど臆病だったもの。

そう思いながらも、やはり直衛の事を大事に思っているのは当然のことであった。篤胤と保胤が二度と駒城の末弟に会えぬかもしれないと話しているのを聞いて涙を流した。
――そう、それにあの頃から変わっていないのかもしれないのは私も同じ若様と結ばれているのにあの子に強く呪わしく、縛られているのだから――――


同日 午後第四刻
〈皇国〉陸軍特志幼年学校卒業生 新城直衛


僅かに頬がゆるむのを自覚しながら店に入る。
中々どうして無調法な羽鳥が知っていたとは意外に思うような何処か上品な料亭風である。

ちょっとした色気のある仲居にインパネスを渡し、案内された先の小部屋に入ると見知った面々が卓を囲んでいた。
 ――参ったな、俺が最後か。
すると皆が立ち上がり、羽鳥が久しぶりに聞く張りのある声を出した。
「新城少佐殿の武功と無事の生還をお祝いする、敬礼!!」
 見事に均整のとれた敬礼が新城に向けられた。今は後備役になっているが皆が二十過ぎまで将校として戦い、そして血を見ている。
「少佐殿、着席の御許しを。」
 今では皇室史学寮で研究員をしている古賀が真面目くさった演技を続ける。
「座ってくれ、いい加減にしろ。」
 どうもこの場では一人だけ現役の将校であるのにこうした事には慣れない新城は、むず痒さを覚えながら皆を促す。

「樋高、始めちまおう。」
 暫く見ないうちにますます福福しい見かけになった槇氏政が隣に座った樋高を促す。
 ――槇氏政、大手の造酒屋である大周屋の若旦那だ。軍隊時代はそつなく仕事をこなしているのにその外見から兵に自発的に面倒をみさせるという奇特な将校だった。

「そうだな、皆が揃ったことだ、始めるか。」
 樋高もそう言って仲居に頷く。
先程の仲居だった、改めて見ると典雅な顔立ちがこの男に似ている。

「何だ、ご家族なのか?」

「従姉妹だよ。」
言葉の内容にそぐわぬ程に面映ゆそうに応える。

「そして許嫁だろう?
この店の一人娘でお前が若旦那、肝心な処を抜かすなよ。」
古賀が茶々を入れる。

「まぁ、そうだ。将来の若旦那として一辺に作って持ってこさせる事にした、異論は無いな?」
少し顔を赤らめながら剽げる姿には曾ての上官にすら噛みつく狂犬少尉の面影はない。
 すぐに旨そうな料理が並び、酒の入った水晶椀が皆に配られる。
「おい、新城。貴様が音頭をとれ」
古賀がせっつく。

「そうだな――ならば〈帝国〉騎士が言っていた言葉だが」
僅かな含羞を飲み込み、音頭をとる。

「大いなる武功と名誉ある敵に。」
「「「「大いなる武功と名誉ある敵に!」」」」



 皆が幾度か杯を呷り、皿が積まれた頃、古賀が思い出した様
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