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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十八話 新城直衛の晩餐
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皇紀五百六十八年 五月一日  午後第二刻
駒城家下屋敷 
駒州家育預 新城家当主 新城直衛


 新城直衛は珍しく困惑の表情を露わにしていた。
近衛への辞令が出る前に、と友人達が都合をつけ、集まってくれたので出かけようとしたら――義姉に見つかってしまった。

 ――参ったな、遅れてしまう。
「また、馬堂様と、ですか?」
 蓮乃は僅かに不機嫌そうに新城を睨む。
 東州のことで軍人という人種を嫌っているからか、蓮乃は義理以上の関係を将家の者達ともとうとせず、もっぱら使用人達と交流を深める事を好んでいる。
尤も相手の将家方も好んで関わろうとしない為、それが保胤を悩ませることもあまりない。
 だが新城が元服してから旧友との交流を交わす場所の選択肢に駒城の屋敷を外すようになったのは紛れもなく義姉の影響であった。

「いいえ違います義姉上。羽鳥達に同期の皆で集まろう、と言われまして」
そう言うと再び眉をひそめ、今度は内容を変えて説教を始めた
 新城は陶然とそれを聴きながら発作的な安堵、慕情、そして焼けつく様な激情に酔う。

「聴いてるの?」
義弟が意識を飛ばしているのを見て、蓮乃は優しく叱る様に睨む。
常の様に、どこか陶然としたまま相槌を打つ。

「度が過ぎないように御気を付けてなさい、直ちゃん。
貴方は昔から――」
 ――あぁきっと義姉さんは母親代わり位にしか思っていないのか、いや当然だ、だからこそ、義兄上と情を交わしたのだから。あぁやはり屋敷から出て別の所に住まえば良かった。
いや、もし、そこを義姉さんに訪ねてこられたら――

 破滅的な妄想を脳裏で弄ぶ。

はは
ははは
それもいいな。
楽になれるじゃないか、
納得して地獄に行くことが出来る。
そうだ、そうだとも俺は義姉さんさえ――

「――あら、少し話しすぎたわね、直ちゃんも楽しんでいらっしゃい。」
「……はい、義姉上。」
 余りに刹那的な思考をかき消しながら頷いて屋敷を出る。
 けして振り向かない、今の今まで考えていた事への羞恥を隠しきれなくなってしましいそうだからだ。


同日 同刻 駒城家下屋敷 
駒城家若殿愛妾 駒城蓮乃


あの子は――いつも振り向かない。
義弟の背を見送りながら思う。

そう、いつもの通りに振舞っている。
あの恐ろしい戦から帰っても――何も変わっていない。
 ――あの子は何者に成り果てたのだろう。あの何もかも焼かれた東州では夜霧の影を魔王の様に恐れ、木の葉のざわめきに怯え、啜り泣き、暁光が落とす、枯木の影に震えたあの子はどこにいってしまったのだろう。
 そんな戦場であの恐い男と何もかもを焼き尽くして殺してまわって――
 いいえ、いいえ、違う、あの子は何も変わっていない。そう、あの
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