本編前
第四話
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よ。ただのお茶会なんだから」
「しかし、せっかく丁寧に入れてくださった紅茶なので下手に飲むわけには……」
笑いながら、適当に飲めと勧めてくれる月村さんのお姉さん。
しかし、やっぱり適当に飲むことなど出来ない。コーヒーメーカで自動的に作られたコーヒー、ティーパックで適当に蒸らした紅茶ではないのだ。陶磁器のポットにお湯をいれ、最初からカップにお湯をいれ、紅茶を入れたときにカップと紅茶の温度差が出ないようにするなどのきちんとした手順を踏んで入れられた紅茶である。きちんと飲まなければ入れてくれた相手に失礼というものだろう。
「蔵元様、ありがとうございます。しかしながら、蔵元様のお好きのようにお飲みになってください。お客様がお茶会を楽しんでいただくことが我々の仕事ですので」
「そうよそうよ。そんなに堅くならなくていいんだから。それでもって言うなら、ダージリンのファーストフラッシュはそのまま飲むのが一番よ」
―――なるほど、そうなのか。
僕は意を決して、カップを持ち上げ―――陶磁器の熱伝導のせいか若干熱かったが―――ゆっくりとカップを口に運び、紅茶特有の香りに驚きながら、ダージリンのファーストフラッシュという名称の紅茶を口にした。
―――苦い、というのが正直な感想だった。だが、飲めないほどではない。一口目をとりあえず口に入れ、そして、もう一口口に入れたところでカップをソーサーの上に戻した。
「あら、飲めたのね。君ぐらいには少し苦いと思ったんだけど」
半ば悪戯が成功した子供のように笑う月村さんのお姉さん。しかし、客人に悪戯代わりに苦いと分かっている紅茶を出すとは。もっとも、その悪戯も小学生である僕だから通じる悪戯であるが。
しかし、隣を見てみると月村さんのお姉さんが苦いといいながらも、バニングスさんや月村さんは意外と平気そうにストレートで飲んでいる。
「その割りに二人とも普通に飲んでますけど……」
「あたしは、飲みなれてるからよ。最初は、あんたみたいに飲めなかったわ」
「わたしも最初は飲めなかったかな」
僕は驚いた。それは、僕が我慢して飲めたことにではない。慣れるほどに彼女たちがこの手の紅茶を飲んでいることにである。庶民と社長令嬢の差はこんなところにも現れるのか。
僕に出来る唯一の抵抗は、世知辛さを肝心ながら、この紅茶を飲むことだけだった。
「さて、蔵元翔太くん」
「はい、なんでしょうか? 月村さんのお姉さん」
僕としては普通に答えたつもりだったが、月村さんのお姉さん的には何かしらの不備があったらしい、ガクッと出鼻をくじかれたように、肘を滑らせ、顔には引きつった笑みを浮かべていた。
はて、僕は何かまずいことをしてしまっただろうか。
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