第3話 献身
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……本当に?」
ティコが、また、じぶんに、生きる、チャンスを、くれるの?
「もっちろん、ホントのホント☆ ……まっ、今回はティコりんじゃなくて、“あの方”直々にお越しいただいているんだけどね」
あの方? 以前とは違った展開と、聞きなれない単語に思わず聞きなおそうとするが、コツン、というこちらへ誰かが歩いてくる音にその言葉を遮られた。
コツン、コツンという音は段々と大きくなりながら暗い世界に響き渡り、それが近づいてくるのがはっきりと分かった。
近づいてきたのは、どこか超然とした雰囲気を持つ青年だった。
周りは黒一色の暗黒の世界だというのに、その青年だけはそれに溶け込まず自身の存在を主張し続けている。それだけで、この世界では充分な異彩を放っていた。
アルビノとは少し違う、真っ白な肌に髪、そして灰色に近い目を持つ顔。赤と黒のストライプの上着に黒いズボンを纏った体は、触れれば折れそうなほど細く儚げに見えるのに、そんなことを感じさせなかった。彼はただ立っているだけだというのに、到底純吾では敵いそうにない圧倒的強者の雰囲気を放っていた。
さりとてその雰囲気に圧倒されるかといえばそうはならない。純吾を見つめる目はどこか嬉しそうに細められ、口元にはあるかないかの微笑を浮かべていた。その表情だけで、その強烈な雰囲気を少なからず和らげる事に成功している。
「やぁ、天秤の守護者よ」
純吾の間近にまでやってきた青年は、彼を見下ろしつつ開口一番にそう言った。
「ジュゴス?」青年が誰の事を呼んだのか一瞬分からず声に出してしまった。しかしすぐにそれが自分の事だと悟り、若干渋面になりながら純吾は答えた。
「……違う。ジュンゴは、鳥居純吾」
それに何を思ったか。純吾は明らかに不機嫌な様子なのに、青年は感心したように口元に手をやり、微笑を深めた。
「…名か。儚く、そして無為だ。だが、……素晴らしい。」
予想外の反応に、純吾は困惑して青年の顔を見つめる。それに気がついたのか、「あぁ」という声をあげ、青年は倒れ伏す純吾を改めて見下ろした。
「すまない、天秤の守護者を無視する気はなかったんだ。ただ、久しぶりに人間と会話をしてね、思わず感慨に浸ってしまったよ」
そう穏やかな顔のまま告げる。自分の呼び方など気になる所はあるが、一応の納得をする純吾。 だが肝心の彼は誰なのか、という事を聞きそびれていた。「誰?」と短く青年に問いかけてみる。
「『憂うもの』。私は自分の事をそう呼んでいる」
青年は口元に手を置いたまま、少し困ったようにそう返した。
『憂うもの』。
青年の明らかな偽名に純吾は眉をひそめたが、ふと自分が本題をすっかり忘れていた事に気がついた
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