第三章
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「アルプスを空を飛んで越えられない」
「気球で危ないのなら」
「無理なことを言う」
「戯言だと」
「多くの者が言っているのは知っていたよ」
王自身もだ。
「狂王の言うことだとね」
「そうですね、ですが」
「それは適っています」
二人で王に返した。
「私達が生み出した飛行機により」
「それが適いました」
「もっともその飛行機もです」
「最初は無理でした」
アルプスの上を飛んで越えることはというのだ。
「未熟な複葉機では」
「ほんの少し飛ぶ様でした」
「まるで鶏でした」
「雁ではなかったです」
「その時無理でも何時かは適うものだよ」
王は優しい顔と声で述べた。
「私はそう思っていた、そしてだ」
「現にそうなった」
「飛行機も進歩して」
「そして雁になり」
「アルプスも越えられました」
「そうなった、そして今や宇宙にも至った」
人間はというのだ。
「そうなった、そのことを見ると」
「その時戯言と思われても」
「未来はわからないですね」
「その時の常識や知識は絶対ではない」
「技術も」
「人間は進歩して発展していく、私は今もそう信じている」
天国においてもというのだ。
「そしてそうなっている、本当に嬉しいよ」
「王はそうしたお考えですね」
「常に」
「生きておられた時から」
「左様ですね」
「文明の利器を愛され」
「常に親しく接せられていましたね」
ライト兄弟は王のこのことも話した。
「鉄道や機械に」
「庭園やお城にも使われていましたし」
「花火も愛されていましたね」
「音楽や劇や古典以外にも」
「そうだった、戦争やテロよりもな」
王は達観した貌と声で述べた。
「文明の技術はそうしたことに使われて欲しい」
「飛行機についても」
「左様ですね」
「そうも思うがだが確かに人間はアルプスの上を飛び越えられた」
その望みのことをまた言った。
「私はそのことは素直に喜べる、ではな」
「これからもですね」
「天国においてですね」
「私は人間の未来の進歩を見守っていく」
ライト兄弟と共にワインを飲みつつだった、王は語った。生前は非常に整っていると評判であった顔は今も健在だ。その顔には満ち足りた優しい笑みがあった。
遥かな空 完
2024・11・14
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