九十八 光あるほうへ
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此方の位置をハッキリとは把握できてない。ここは待ち伏せして不意を突き、逃げ道の突破口を…」
「無理だ…この場合誰かひとりが陽動で気を引くしかない…」
「囮役か…まず命はない…誰が…」
自ら死ににいくのも同然の行為を誰が好んでいくものか。
そして今まさにそれはダンゾウの忍道である《自己犠牲こそ忍びの本分》をいうものだ。
己の命を捧げ忍びとしての誇りを選ぶか、己の命を守り火影への夢を守るか。
その究極の選択を今まさに迫られている。
だがその時、ダンゾウは実行に移せなかった。
隣の猿飛ヒルゼンの行動ばかりを気にし、自分が申し出ることが出来ず、身体の震えが止まらない。
代わりにヒルゼンが囮になることを申し出た途端、ダンゾウはホッとした。
してしまった。
同時に身体の震えが止まる。
火影への道のライバルがいなくなってくれる安堵と己の命が助かったことへの安堵。
それを心の何処かで感じてしまったのだ。
それなのにヒルゼンはライバルである自分を応援した。
自ら迷いなく自己犠牲という選択を選んだというのに、ヒルゼンはダンゾウこそが次期火影になることを心から喜んでいる。
それがダンゾウのプライドを引き裂いた。
次期火影の座すら笑顔で明け渡すヒルゼンにダンゾウはこの瞬間、敗北を思い知った。
火影になりたい欲望とライバルの脱落。
それを本心では願っていた己の浅ましさと姑息さと欲深さとは対照的に、己の命を捧げ忍びとしての誇りを選び、本気でダンゾウを認めている猿飛ヒルゼンとの圧倒的な差。
だからこそ直後、三代目火影へ任命された猿飛ヒルゼンへ、ダンゾウは嫉妬した。
同時に、一生涯消えることのない烙印を自ら押してしまったのである。
その際、二代目火影に『己を見つめ冷静さを欠く事なく己を知れ』と忠告されたが、ダンゾウはその意味を考えようともしなかった。それよりもヒルゼンへの感情のほうが大きかったのだ。
それでも三代目火影となったヒルゼンを支える為、【根】を組織し里の闇として生きることを選んだのは少なくとも里への愛はあったからだ。
いや里への愛があったからこそ、ダンゾウはヒルゼンとは真逆の道を選び、甘い火影には出来ないことを、それこそどんな卑怯な手を使ってでもなりふり構わず行った。
自己犠牲は忍びの本分という忍道を実行に移せなかった己を、ヒルゼンにいつまでも追いつけない自分を、あの日の弱腰を覆したいという思い。
火影への道、表で光を浴びたい欲望、ヒルゼンに認められたい願望をダンゾウは捨てきれなかった。
だからこそ火影の座を欲した。
猿飛ヒルゼンと並ぶ為に。
かつて自己犠牲に徹し切れなかった自分を、そしてなにより己自身を認める日をずっと追い続けてきたダンゾウにとって、ヒルゼンとは…─
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