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ああっ女神さまっ 森里愛鈴
1 美しく賢く育った娘
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 それだけの夜が、誰よりも幸福で、静謐だった。
 二人はかるくシャワーを浴びて、肌触りの良い寝間着に着替える。布団を直して二人並んで横になった。
 時間が止まったような静かな空間で、ふたりの身体はすでに落ち着いていた。
 だが、心はまだ、静かに、深く――愛鈴という光をめぐって揺れていた。
 螢一がゆっくりと上体を起こし、棚の端にあった銀の水差しを手に取る。水を一口含むと、ベッドに横たわるベルダンディーへと戻り、彼女の額にそっと手を添えた。
「……ほんとに、賢い子だよな。俺たちには、もったいないくらいだ」
「そんなことありません……」
ベルダンディーはその手に頬を寄せながら、静かに微笑んだ。
「賢いだけじゃない。あの子は……誰かの痛みを、ちゃんと感じることができる。だからこそ……怖がりでもあるの。自分の手が誰かを傷つけてしまうって、心のどこかで……」
「……知ってるよ」
 螢一の目に、一瞬、深い影が走った。
「……だからこそ、“普通”を教えてやらないとな。みんなと同じように笑って、悩んで……ときどき失敗しても、許されるんだって」
 彼の言葉に、ベルダンディーはそっと頷く。
 それは神としてではなく、ただの「母」として――娘の未来を願う者としての頷きだった。
「螢一さん……」
 彼女がその名を呼んだとき、螢一は再び彼女の隣に横たわり、背中を優しく包んだ。
 ふたりの体温はもう落ち着いていたが、心はまた、ひとつに重なっていた。
 そして、螢一の眠りが落ちるのを見届けるようにして――
 ベルダンディーは、天井を見つめながら、そっと目を閉じた。



(この部屋は……)
ベルダンディーの内なる声が、静かに響く。
(……本当は、あなたと私のためだけに作られたものではありません)
(あの夜のこと……覚えていますか?)
(初めて、この部屋で一つになったあの日――)
そのとき、天界の記録者たちは一様に混乱した。
祝福と歓喜と、なにより――「命」そのものの波動が、空間を超えて世界に満ちた。
それは、**生の干渉波**。
女神であるベルダンディーが絶頂に達したとき、彼女の核から溢れたそのエネルギーが、地上界のあちこちに染み渡り、
――その年、世界中で不思議なほどのベビーブームが起きた。
(極端な人口増加は世界のバランスを崩します。だから……この部屋は、“隔離”された場所として設計されたのです)
(あなたと結ばれるたびに、私の中からあふれるものが、世界に影響を与えないように)
(愛しているからこそ……あなたと触れ合うことが、世界を揺らしてしまう。そう思えば、少しだけ切ないです。)
だが、その切なさを包むように、愛しさが重なる。
(でも……それでも、この温もりが……私にとっての“普通”なのです)
彼女の指先が
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