第二部 黒いガンダム
第五章 ライラ・ミラ・ライラ
第四節 闖入 第四話
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ライラの駆る《カスタム》の警戒宙域に入った瞬間、レコアはクレイバズーカを放ちながら、回避機動を行った。機体をAMBACで僅かに回転させながら、右へとスライドさせる。最短距離を走破する直線運動から螺旋運動へと移行したのだ。さっきまでの直線軌道を起点に不規則な螺旋を虚空に描いた。
宇宙空間ではスラスター以外で自発的に移動することはできない。空気抵抗や重力がないため、運動エネルギーが相互に作用せず、新たな力が加わるまで保持されるのだ。つまり、機体の回転は能動的に動いたとしても、スラスターで付けた加速と位相は変わらない。MSの機動はこの法則を利用したものだ。AMBACとは機体各所にあるスラスターの角度を能動的に変えることで、姿勢制禦のためのスラスターを噴射の必要がないということだ。当然、位相を変えるためにはスラスターを噴かすことになるが、姿勢制禦のためにスラスターを噴出しなくていい分、活動限界が延ばすことができた。少ない資源で兵器を有効活用しなければならないジオン生まれの兵器らしい特性である。
《カスタム》のスペックは《リックディアス》のデータベースに登録されている。《カスタム》の警戒宙域に差し掛かれば牽制でも攻撃がくる――その判断に間違いなかった。さっきまでレコアがいたところに、ライラが放った光弾が通過していく。
新手が三機ならシャアたちが出れば簡単に片付くだろう。だが、シャアの手を煩わせたくなかった。それは個人的な理由でしかないが、レコアにとって重要なことだった。
「大佐には休養が必要よ」
寄り添うシャアの姿を夢想し、慌てて現実に立ち戻る。妄想に現を抜かしていい場面ではなかった。敵は、此方を甘く見ている。それは戦力の逐次投入をしたことで判る。だが、それが罠であるという可能性を否定はできなかった。だが――
「邪魔はさせないっ」
その思いが、力となってくれる。
そう信じていたし、レコアにとってそれは真実だった。誰が理解しなくてもいい。結果を積み重ねていけば、それは事実となる。
一年戦争をくぐり抜け、生き残ったパイロットの端くれだという自負が、レコアにもある。生に執着を持つ者だけが生き残れる、それが戦場だと知っている。だが、主義主張のために命は張れなくとも、好きな男のためなら、死ねるのが女だ。大佐のため――憧れてやまなかったシャアがいま手の届くところにいる喜び。矛盾するが、のシャアの側にいられるなら、命は惜しくないと思っていた。
レコアの駆る《リックディアス》は本来重MSに分類されるべきMSである。ガンダリウム合金による軽量化による推進剤の増量とバインダーの装備によるAMBACの多様化によって高機動を実現した珍しい機体だ。擬装のためのアナハイム社による増設パーツが本来の機体以上の性能を引き出し
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