第二部 黒いガンダム
第六章 フランクリン・ビダン
第五節 散華 第四話
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と評される『重力に魂を引かれた人たちの私兵』――つまり、地球居住者、とりわけその中でも一部の選民思想者たちのためだけにある暴力機関という認識が出来ていなかった。
(ハッチを早く開けなければ)
殺されたくない。その一心だった。
ヒルダの専門は材質工学であり、ルナチタニウム精製や複合材質による強度向上を研究しているため軍に所属しているだけで、MSなどに興味はない。したがって、コクピットハッチの操作など解るはずもなかった。
だからコンソールなど触ろうともせず、全周天モニターの正面横にあるハッチロックに取り付いた。それは、電気系統や電子機器が故障してもハッチを開けることのできる油圧式のロックである。
「い、いま開けます。開けますから、殺さないでぇっ」
ヒルダは目の前の暴力に屈した。フランクリンが振るう暴力は所詮感情の暴発に過ぎず、己で対処出来うるものだ。しかし、これは違う。一瞬で消滅する――人としての存在が無となってしまうということに思える。死んだことさえ認識されないかも知れない――それは人の尊厳を冒涜するものでしかなかった。
油圧式ロックはリング状のハンドルになっている。体重を掛けて押し込み、セーフティを解除した。そこから反時計回りにハンドル回せばよいのだが、女の力ではなかなか動かない。
どれ程の時間が掛かっただろうか。
ヒルダには途方もなく長い時間に感じられたが、実際には然程の時ではない。
――グオンオン、ゴンゴンゴン
不意に機械音が鳴る。油圧式のロックが内側から解除されると自動的に外で胸部コクピットシールドがせりあがっていくようになっているのだ。コクピットシールドが上がりきると、ハッチを覆う紅いシールドが降る。内側がタラップになっており、ガントリーレーンがあれば、直結するようになっていた。
――シュー……
エアロックが解除され、空気が抜ける音が聞こえなくなると、ハッチを開けることができる。ハッチ上のランプが赤くUNLOCKと点灯した。一瞬、ヒルダは躊躇した。
本当にこれでいいのだろうか。カミーユの言葉は嘘ではない。だが……。首を左右に振って、迷いを断ち切るようにハッチの開ボタンを押した。
既にビームサーベルの光は消え失せ、MSは掌を差し出している。生理的な恐怖は拭えないが、見馴れた連邦のMSである。ハッチをくぐり、タラップから脚を伸ばして、巨大な掌に移った。
――そうだ。そのまま腹這いになれ。
先程の声がより明瞭に、そして少しだけ優しかった。ヒルダはそれだけで自分が死を免れたと感じた。
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