第二部 黒いガンダム
第六章 フランクリン・ビダン
第五節 散華 第一話
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エマ機は至るところに被弾していた。
弾痕に穿たれた孔はない。殆どが擦過傷であったが、あまりにも数が多過ぎた。装甲はぐずぐずに崩れ、至るところで捲れあがっている。さすがに、ムーバブルフレームまでは見えないが、フレキシブルアーマー機構は損傷し、セミモノコック構造体の中が剥き出しになっているところもあった。
全てライラの部下――ライルとカークスによる被弾である。動いているMSに命中させるには相当な技倆と動体視力が必要だとはいえ、動きの鈍い今のエマ機に掠り傷しか与えていないのは逆に難易度が高い。当ててしまう方が簡単だ。
彼らはライラほどではないにしても、連邦軍ではベテランに数えられる。入隊が戦後とはいえ、軍人になって既に六年。彼らの乗艦である〈ボスニア〉は、〈ルナツー〉鎮守府でもずば抜けて出撃回数が多い艦だ。恐らくは《地球の盾》と渾名される戦術防衛特殊作戦群――地上のジオン公国軍残党掃討作戦を行う「ジオン狩り」の専門家――アイギスに次ぐ戦歴であろう。
つまり、単に、撃墜していないだけだ。可能なら鹵獲したいというチャン・ヤーの意向を汲んでいるだけだ。
ライラとチームを組んで、戦闘は狩りであるという考え方に馴染んでいたことも気持ちの後押しをしたとも言える。これまでライラの補佐に徹してきたが、この相手なら、余裕で狩りをやれると踏んだのだ。
だがそれは、エマにとって不自然な動きでしかない。まるで、猫が鼠に手加減して、徐々に動けなくしてから始末するというような、狩りというよりは残酷な遊びに見えた。
ティターンズではない彼らが奪還を目的にするとは思えなかったことと、連邦軍一般兵の規律の弛み、素行の悪さを知るだけに、彼らの行動が軍人のそれではなく、ヤクザ崩れのチンピラの行動にしか見えなかった。さらに言えば、彼らにティターンズへ協力する理由が考えつかないのだ。
だが、ティターンズの権力に媚びへつらったり、ティターンズを利用してのしあがろうとする者たちがいることをエマは失念していた。つまり、傭兵感覚の戦争屋や権力に尻尾を振る連中は、ティターンズに進んで協力しているという現実がある。これには、いわゆるジオン公国に対するレジスタンスや義勇兵隊という体裁をとった山賊崩れが一年戦争で正規軍に組み込まれたりした経緯も関係している。無政府状態だった広大な領土を再編するには、これらを掃討するよりも組織に組み入れた方が早かったのだ。勿論、帰順を拒めば、見せしめに容赦なく滅ぼしもした。
一年戦争の後遺症ともいうべき歪みがここにもある。連邦軍の質の低下に歯止めを掛けようにも、立ちはだかる現実は厳しい。
「なぶりものにしようというの?」
結論として、エマは敵の行動をそう捉えるしかなかった。ならば、捕まる訳にはいかない。
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