第二部 黒いガンダム
第六章 フランクリン・ビダン
第五節 散華 第一話
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エマとて、機体がまともならひけをとることはないという自負はある。だが、今はヒルダが同乗している。全力で戦うことはできないのだ。
そのヒルダが状況も弁えずエマに投降を訴えていたため、内心腹立たしかったが努めて冷静を装っていた。喚き散らすヒルダのヒステリックな声が耳障りで、勘に障る。
「エマ中尉っ! はや、早く投降して!」
ヒルダが悲鳴のような金切り声で、シートの背凭れを叩きながら叫ぶ。
そもそもこんなバカげた逃走劇を仕組まなければならない事態になったのは何故か。ヒルダとフランクリンが拘束されていたからこそである。エマには投降しなければならない理由は一つとしてない。
ヒルダにはそれが解っていない。説明したとて解らなかったろう。ヒルダはいまだに脱出と考えていなかったし、ティターンズの正義を信じているといよりも、自分の立場を理解していない。罠に落ちてもなお、現実を直視できない冤罪被害者というのは始末が悪かった。
投降すれば、ヒルダは再び虜囚となり、エマは悪ければ軍事法廷で有罪にされかねない。そして、ヒルダもメズーンの母親のように殺されてしまうのか。
さらに言えば、あのバスクならばエマを即刻銃殺ということも考えられるのだ。それでは犬死にでしかない。ヒルダの発言は浅慮以外何物でもないのだ。
「ヒルダ中尉、黙って! 舌を噛みますっ」
金切り声を無視して忠告した。これ以上はエマも耐えられない。通信をオフにして、耳障りなヒルダの声を遮るしかなかった。
コンソールに映し出された機体の損傷は五パーセント程度。駆動系も推力系も無事だ。バックパックのメインスラスターも脚部の補助スラスターも活きている。アポジモーターは大半が動くとなれば機動防禦は可能だ。AMBACに一部機能低下が見られるが、まだなんとかなりそうだった。
右二時方向仰角一○度上昇。
左十一時方向臥角五度下降。
小刻みに回避パターンを変えながら、ライルとカークスの銃撃をかわす。そして状況の変化を待つしかなかった。カミーユは赤紫の《カスタム》と対峙していたし、レコアの救援も阻まれている。自力でどうにかするしかない。
起死回生のチャンスが来るのを待ちながら、機動防禦を続けた。細かく機体のコントロールをするのはエマの十八番だ。敵の行動予測をしながら自機の機動を気づかれない程度にずらしていく。回避行動が不自然にならないように配慮しながらだ。気づかれてしまえば、今のエマにはどうすることもできなかった。
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