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墓の中の舌
第二章

[8]前話
「そうします」
「そうか、ではそなたを捕らえる」
 こう言ってだった。
 王はネポムクを捕らえ拷問をかけさせた、それを見て多くの心ある廷臣達が王に対して慌てて言った。
「あの、司祭殿を責め苦にかけるのは」
「流石にどうかと」
「告白は言えぬものです」
「それが道理ですから」
「お止め下さい」
「調べても王妃様は潔白でしたし」
「ですから」
 こう言って止める、だが王は聞かず。
 ネポムクへの拷問をさらに続けた、それでもだった。
 彼は言わなかった、あくまで言うのだった。
「何があろうともです」
「言わぬのか」
「それが務めですので」
 神に仕える者のというのだ。
「何としても」
「そうか、ならだ」
 王は遂に堪忍袋の緒を切った、彼のそれを。
 そしてだ、周りに命じた。
「あの司祭をモルダウ河の橋の上から落として処刑せよ」
「あの、ですからそれは」
「責め苦でもなりませぬし」
「処刑などはもう」
「断じて」
「余の言葉だ」
 王の自分のというのだ。
「せぬのならそなた達をそうするぞ」
「そ、それは」
「そう言われますと」
 廷臣達も言えなかった、そうしてだった。
 実際にネポムクはそうして処刑されることになってだった、縛られ橋のところに連れていかれそのうえで。
 そこから落とされた、だがその時に。
「な、何と」
「司祭殿のご遺体から星が出たぞ」
「それも五つも」
「これは奇跡だ」
「徳の高い方だからな」
「これも道理か」
「ご遺体から奇跡が起こるのも」
 それを見た誰もが驚いて言った。
「そうなのか」
「では手厚く葬ろう」
「聖人に列席されるべきだ」
「全くだ」
 こう話してだった。
 そうして手厚く埋葬された、そして。
 その三百年程後でだ、プラハの大聖堂彼が葬られたそこに行き機会があり彼の墓を開くと残っていたのは。
「舌だ」
「舌が残っているぞ」
「これは沈黙を守られたからか」
「告白を言わなかったからか」
「王妃様のそれを」
「だからなのか」
「何と尊いことだ」
 誰もが思った。
「このことを語り継ごう」
「永遠に」
「そして書き残そう」
「そうしよう」
 こう話してだった。
 舌のことが讃えられた、そして王は他の失政の数々のこともあり愚かな王そして皇帝だったと伝えられている。そしてネポムクは今は処刑された場所から水流や橋を守る聖人として深く信仰されて今に至る。


墓の中の舌   完


                    2024・10・14
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