第116話 辺境病
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宇宙暦七九一年 一〇月二五日 パランティア星域ケルコボルタ星系より
第一〇二四哨戒隊が航路復帰して三時間。時間通り真っ白な医務士官服に身を包んだモイミール医務長と警備主任のマーフォバー大尉が、それぞれ報告書を持って司令艦橋に上がってきた。
「捕虜の生体状況は一通り確認した。重体者一二名は患者本人が選択しない限り、まず命に問題は無かろう」
筋の通った鷲鼻にギョロっとした目付き、肩まで届く白髪交じりの長髪。一九〇センチを超える長身だが、肌は白く肉付きが薄いので、白髪の骸骨が動いているように見える。
「他の負傷者も順次処置を行っている。問題はスペースだ。捕虜だからと言って重傷者を狭い貨物室や営倉に放り込んでいるのは、医療・精神の両衛生上から言ってもよろしくない。どうにか改善は出来んのか?」
「先生の仰ることもわかりますが、捕虜という立場上、彼らに対し厳重な管理は必要です」
苦虫を噛み締めたような渋い表情でモイミール医務長に、マーフォバー大尉が応じる。三〇代前半中欧系の、太く長いもみあげと左眼の上下から伸びる戦傷が良く映える偉丈夫で、肩から吊るすタイプの腕章に描かれたMPの文字をより輝いて見える。
「ですが小官としても捕虜の管理については問題があると考えます。隊司令にはご確認の上、速やかなご判断をいただきたく」
「二人の意見は理解しているつもりだ」
両者ともとっとと捕虜を各艦に分散するなり輸送艦に詰め込むなりして対応しろと言っているのは分かっている。しかし報告の内容次第ではどうにもならないかもしれないことも確かだ。
「先生。血液検査の方はどうでした?」
「三八人。約九パーセントだ」
「はぁ?」
思わず口を開けたマヌケな表情のままマーフォバーに視線を移すと、首と顎が筋肉で結びついている大尉は厳しい目つきで頷いて応えてくる。
「検出者は特定の艦に集中しています。把握しているのは三隻。戦艦ツェルニッツ、巡航艦ベルネッケV、巡航艦ビフーゼンZ。いずれも初手にぶつかった哨戒隊の艦です」
「階級は?」
「上級幹部から二等兵までです」
つまり汚染は将兵の個別ないし艦単位の連帯組織というレベルではなく、哨戒隊単位という事だろうか。マリネッティの第一二九九哨戒隊を攻撃した時と同じように、基本をツーマンセルとし先制攻撃する側の哨戒隊を麻薬汚染させ、彼らを犠牲に同盟側哨戒隊を磨り潰すというかなり非人道的な戦術構想なのか。
帝国と同盟では明らかに国力の差がある。特に人口比はほぼ二対一。専制国家末期の軍隊らしく、将兵に対する損耗を厭わない戦術を取ることは充分に考えうる話だ。
「後手にぶつかった哨戒隊にはいなかった、でいいか?」
「残念ながらそちらは爆沈した艦が多く、捕虜自体が少ないというのが正しい
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