壱ノ巻
毒の粉
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あたしは一気に飛び起きた。
朝。夜明けに近いけれどまだ薄暗く、肌寒い。
あたしは体中にじっとりと汗をかき、がたがたと震えていた。跳ねのけた衾を色が白くなるほど握りしめる手すら細かく揺れている。
今、夢を見ていた。何の夢かは分からない。けれど、夢を見ていた。
強く、心に残る絶望。そして、体に収まりきらないほどの悲しみ。
「…う」
ずきりずきりと頭が痛む。
夢の内容を思い出そうとすればするほど、遠ざかる。考えてるその間に記憶がこぼれていく。
残っているのは身を焦がすほどの感情だけ。
夢、ゆめ。泣いている。誰が?
炎が舞っている。何もかもを燃えつくそうと、炎が踊る。
頭痛い。
「う、ぁう…」
いかなきゃ。どこへ?
待って、どうして…。
考えがまとまらない。
暗闇の室の中、不意に音もなく光が射した。
光を辿って顔を向けると、開いた障子に手をかけ誰かが立ち尽くしていた。
足音も何もしなかった。あたしが気づいていなかっただけかもしれないけれど。
「…」
唇は開いたけれど、声を出す力が体になかった。あたしはなぜか、酷く疲れていた。
夢を追いすぎて、今のあたしの状況を考えるのが億劫で、それが誰かとかなぜこんな時間にあたしの部屋に来たのかとか思うのもだるくて、ゆっくりと睫を瞬かせた。
静かに滴が頬を伝う。
その時、初めて気がついた。ああ、あたし、泣いているんだ。
悲しい。何が悲しいんだろう。でもすごく、すごく、悲しい。
何か大事なものを無くしてしまったような。
夢のこと、なのに。
夢の中ではそれは確かに現実としてあたしの心に迫っていて。夢でよかったとも思えずあたしは静かに涙をこぼした。
「いかないで」
胸が締め付けられるように、夢に浮かれたままぽろりとあたしは言葉を落とした。障子から目の前に伸びる人影の肩がびくっと揺れた。ぼんやりとそれを見ていたあたしははっと我に返った。
「うそ。ごめんなんでもない」
慌てて言った。
けれど人影は、一瞬戸惑ってから、遠慮がちにそっと部屋に足を踏み入れた。
一歩入ったところで立ち止まった。その、顔が見えた。
背の中ほどまでの髪を首の後ろで降ろしたまま一つに括り、肉の削げた頬と切れ
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