暁 〜小説投稿サイト〜
戦国御伽草子
壱ノ巻
毒の粉

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 真秀(まほ)は両手で顔を覆った。その場に膝をついて(むせ)び泣いた。
佐保彦(さほひこ)が好きだった。今でも好きよ。でも、真澄(ますみ)と佐保を出て、二人きりで生きるつもりだった。真澄がいれば、幸せだった。真澄も好きなのよ。それだけじゃ、駄目だったの…?」




















この世で一番大切な兄だった。



この世で一番大切な妹だった。



だから、佐保を出ようと思ったのに。



だから、佐保に残って欲しいと思ったのに。



このままじゃ、いけなかったの?



このままじゃ、いけなかったんだ。



あたしは、生きて欲しかった。



僕は、死にたかった。










僕は、死にたかったんだ、真秀。



だから、これでよかったんだ。










望むものと得るものは違う。



あたしは多くを望まなかった。あたしと、御影(みかげ)と、真澄と、三人で寄り添って暮らしていけたら、それでよかったのに。擦り切れたような衣一枚を纏って、身を切るような夜に凍えても、隣にふたりがいればそれは幸せだった。それがあたしのたった一つの願いだったのに。



これは、あたしへの罰なのだろうか。



佐保彦に逢ってしまった。佐保彦を望んでしまった。御影よりも、真澄よりも、佐保彦を。



だから、こうして二人とも失ってしまったのだろうか。



こうして、真澄をこの手で殺さなければいけなかったのだろうか。




















こんな惨い運命がある筈がない!
あたしたちは違う運命を持つはずだった。
別々の領土(くに)で生まれ、邂逅(めぐりあ)い、恋をして、幸せになるはずの運命が、どこかで歪んでしまったのだ。どこかで、あたしたちの運命は()げられ、()められてしまったのだ。
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