第二章
[8]前話
「こんな上手には」
「出来へんか」
「しかも塩谷判官はじめてです」
「そやったんか」
「こんな上手には」
「それが何でそんな出来たんや」
「人形を手に持つと自然に動いて喋ったんです」
そうだったというのだ。
「これが」
「そやったか」
「はい」
まさにというのだ。
「これが」
「まさか」
そう聞いてだ、四郎は考える顔になった。そのうえで勘吉に話した。
「その人形百年も前のもんやからな」
「寛政ですね」
「松平定信さんの頃のな」
「そんな昔の人形やろ」
「ものは古いと魂が宿るな」
「そう言われてますね」
「そやからな」
だからだというのだ。
「その人形もや」
「心が宿って」
「それでや」
そうなりというのだ。
「お前に上手に動かして喋らせたんかもな」
「そうですか」
「そうちゃうか、そう思うとな」
四郎は腕を組んで話した。
「わし等の人形も馬鹿に出来へんな」
「浄瑠璃の人形も」
「何でもない様でな」
作っていてというのだ。
「頼まれたもんどんどん作ってな」
「仕事してますけど」
「その仕事は馬鹿に出来へんわ」
「作ったもんが心持つさかい」
「歳月が経つとな」
「ほんま百年も経てば」
「そうなるからな」
だからだというのだ。
「そう思ったわ」
「そうですね、ほなですね」
「これからもな」
「真面目に作っていくことですね」
「ええ人形をな、長持ちして」
そうしてというのだ。
「しまいに魂が宿る様な」
「そうした人形を作っていくことですね」
「そや、そうしてくで」
「はい、そこまでの人形作ります」
勘吉も約束した、そうしてだった。
彼は四郎に教わりつつ大阪で人形を作っていった、明治時代の話であるがその頃の浄瑠璃の人形は今も残っている。そのうちの幾つかは彼か四郎の作かも知れない。それを手に取ると浄瑠璃が自然に上手になると言うが果たしてそれがどの人形か作者は知らない。その人形たちに出会えた人は幸せだと思うにしても残念至極に思っている。
浄瑠璃の中に 完
2024・12・15
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