暁 〜小説投稿サイト〜
浄瑠璃の中に
第一章

[2]次話
                浄瑠璃の中に
 古い浄瑠璃の人形だ、忠臣蔵のそれを観てだった。
 大阪の人形職人の織田勘吉は眉を顰めさせてだ、師匠の墨谷四郎に言った。勘吉は丸い目で小さな唇を持つ面長の顔の小柄な男で四郎はでっぷりと太った色城で鋭い目の男だ。二人共髪の毛は短くしている。
「師匠、この人形ですけど」
「ああ、それな」
 四郎は仕事場の中で勘吉に言った。
「百年ものや」
「百年ですか」
「寛政の頃のやったか」
「ほんま百年前ですね」
 勘吉は寛政と聞いて言った。
「よおもってますね」
「そやな」
「ええ、ぴかぴかですけど」
「よお手入れしてるさかいな」
 四郎はそれでと話した。
「奇麗や」
「師匠がそうしてますか」
「ああ、今度はお前がするか?」
「弟子ですさかい」
 勘吉は真面目な顔と声で答えた。
「そうさせてもらいます」
「そうか、ほなやるんや」
「自分が言ったことやからですね」
「職人は口だけやない」
 四郎は強い声で言った。
「手も動かすもんやろ」
「はい、ほんまに」
「そやからな」
「動きますわ」
 確かな声で答えてだった。
 勘吉はその人形、仮名手本忠臣蔵の塩谷判官のそれを毎日奇麗に拭く様になった。それを毎日していったが。
 その中でふとだ、彼はそうしようと思ってだった。 
 人形を手に取って動かしてみた、すると。
「あれっ、これは」
「おい、どないした」
 四郎は人形を作る手を止めて勘吉に言った。
「浄瑠璃はじめたんか」
「この度は烏帽子代紋か」
「上手いな、随分」
 四郎は勘吉の浄瑠璃の喋りと人形の動かし方に驚いた、勘吉はそれを最後までやった。すると四郎は笑って言った。
「お前作るだけやないか」
「いや、わし浄瑠璃下手です」
 勘吉はとんでもないといった顔で答えた、人形はすぐ傍にそっと置いた。
[2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ