影の男
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次は造船で栄えた。だがこの街を不幸が襲った。
原爆である。本来は福岡を襲う予定であったらしいが気象の関係でこの街に投下したのだ。
長崎は地獄となった。これにより多くの人が死にそれ以上の人達がその傷跡に苦しんだ。
だが長崎は甦った。そして今は観光でも繁栄している。多くの名所と坂道で知られる美しい街である。
中華街へ入った。横浜や神戸のそれと比べると規模は小さいが長崎ならではの異国情緒がここでも味わえる。
その中のある料理店へ入った。そして料理を何品か注文する。
彼が入った後も客が次々と入って来る。食事時だけあって客足は多い。
本郷は入口に身体を向け座っている。そして客の一人一人を見ていた。
やがて黒いスーツの女性が入って来た。下も黒いズボンである。
「お待たせ、猛さん」
その女性は本郷の側へ行き微笑んで挨拶をした。ルリ子である。
「いや、俺もちょっと前に来たばかりでね。ほら、まだ料理が来ていないだろう」
「ふふふ、そういえばそうね」
ルリ子はコップ以外何も無いテーブルの上を見て微笑んで言った。
二人は食事を済ませた後店を出た。そして中華街を後にし長崎の市街に出た。
「学生時代に一回来た事はあったけれど。本当に綺麗な街ね」
ルリ子は煉瓦で舗装された坂道を歩きながら言った。
「うん、ここへ来たのは初めてだが確かに坂が多いな」
本郷が白い煉瓦を見ながら言った。
「しかし本当に綺麗な街だな。出来る事なら何時までもここに住んでいたいものだ」
海の方を見る。一隻の船が汽笛を鳴らして出港していく。
「そうね、本当に捜査でここに来ているのが残念だわ」
ルリ子は悔しそうに言った。二人はそのまま大浦天主堂へ向かった。
かって我が国はキリスト教の布教、信仰を禁止していた。これはキリスト教の布教から侵略を行なうスペインのやり方を知り、それを恐れたからであった。これはオランダが徳川家康の耳に入れたと言われるが豊臣秀吉から始まっているのでそうともばかりは言えない。実際にスペインはそのやり方で侵略を行なっていた。
その結果切支丹狩りや踏み絵等が行なわれた。西洋の魔女狩りとは違いかなり慎重で厳密な方法が取られ、信者も処罰するより前に信仰を捨てるよう言われたがたがそれでも信仰は容易に捨てられるものではない。多くの者が殉教していった。そして信仰は巧妙に隠され続いていった。
その歴史も終わる時が来た。それはやはり黒船がもとであった。
一八五七年(安政四年)、長崎で踏み絵が禁止され翌年外国人の為の聖堂建立が認められる。そして一八六五年(元治二年)、フランス人神父プチジャン神父により建立された。西坂の丘で殉教した二六人の殉教者の為に建てられたこの天主堂において神父は信者を捜した。だが彼は内心殆ど
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