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拝啓、あしながおじさん。 〜令和日本のジュディ・アボットより〜
第3章 高校3年生
渾身の一作と卒業の時 A
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家として原稿料も振り込まれてくるけれど、さすがに百万円単位はケタが違う。印税でも入ってこない限り、そんな金額は目にすることがないと思っていた。

「そっか、ありがとね」

 多分、さやかもそんな大金はあまり見ないんじゃないだろうか。
 そして、愛美に自分の分まで交通費を負担してもらったことを申し訳なく感じているだろうから、後で「立て替えてもらった分、返すよ」と言ってくるに違いない。その分を受け取るべきかどうか、愛美は迷っていた。
 さやかの顔を立てるなら、素直に受け取るべきだろうけれど。愛美としては貸しにしているつもりはないので、返してもらうのも何か違う気がしているのだ。
 それはきっと、もっと大きな金額を愛美に投資してくれているあしながおじさん=¥ヶ轤ウんも同じなんだろうと愛美は思うのだけれど……。

「――農園主の善三さんの車、もうすぐこっちに来るって。奥さんの多恵さんからメッセージ来てるよ」

「そっか」

 スマホに届いたメッセージを見せた愛美にさやかが頷いていると、二人の目の前に千藤農園の白いミニバンが停まった。助手席から多恵さんが降りてくる。

「愛美ちゃん、お待たせしちゃってごめんなさいねぇ。――あら、そちらが電話で言ってたお友だちね?」

「はい。牧村さやかちゃんです」

「初めまして。愛美の大親友の牧村さやかです。今日から三日間、お世話になります」

 さやかが礼儀正しく挨拶をすると、多恵さんはニコニコ笑いながら「こちらこそよろしく」と挨拶を返してくれた。

「静かな場所で過ごしたくて、ここに来たいって言ったそうだけど、ウチもまあまあ賑やかよ。だからあまり落ち着かないかもしれないわねぇ」

「いえいえ! 寮の食堂に比べたら全然静かだと思います。ね、愛美?」

「うん、そうだね。多恵さん、ウチの寮、二百人も住んでるんですよ。ゴハンの時間になったらそれだけの人数が一ヶ所に集まって、一斉にワーッっておしゃべりするんですもん。もう賑やかどころじゃないです」

「あら、それはなかなかにストレス溜まっちゃうわねぇ。この三日間は畑のお手伝いもしてもらうけど、伸び伸び過ごしてもらって構わないからね」

「「はい! ありがとうございます!」」

「じゃあ、二人とも後ろの席へどうぞ」

 多恵さんが後部座席のスライドドアを開けてくれて、愛美とさやかが車に乗り込むと、運転席から善三さんが「いらっしゃい、よく来てくれたねぇ」と目を細めて声をかけてくれた。

「去年の夏は愛美ちゃんが来なかったから淋しかったんだよ。純也坊っちゃんも来れなくなったっておっしゃってたしねぇ。でも、この時期に愛美ちゃんが友だちも連れてくるって言ってくれて嬉しかったよ。女の子が二人も来てくれて、この三日間は楽しくなり
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