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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第114話 はじめての戦闘(おしごと)
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 宇宙暦七九一年 一〇月二二日 パランティア星域ケルコボルタ星系

 ケルコボルタ星系に侵入して六時間。現在のところ第一〇二四哨戒隊は触接も会敵もせず、予定航路を順調に進んでいた。

 砲撃訓練は一二時間後。恒星ケルコボルタαの重力圏で、惑星ケルコボルタAbの現在位置との直線上にある宙域で行うことは、各艦に短距離光パルス通信で伝達している。敵哨戒隊からの探知も接触もないので、戦艦ディスターバンスの戦闘艦橋は三交代制に移行しており、緊張感がありつつもややのんびりとした空気が流れつつあったが……

「出来ました。ご確認をお願いいたします……」

 身長一五六センチのレーヌ中尉が息絶え絶えと言った表情で、両手で軍用端末を司令席に座る俺に差し出した。それを片手で受け取る俺の姿は、まさにジュニアハイスクールの女子生徒が提出した補修課題を添削する、イジワルな新卒教諭そのもの。俺を右横三メートル離れたところで見ているドールトンの視線は実に冷たい。

 レーヌ中尉に俺が出した課題は三つ。三〇発の標的デコイの運用プログラムと、一〇〇発の中性子ミサイルの長距離自律制御・軌道計算と、爆雷敷設制御の調整案。いずれも難易度は高く、さらには時間制限があって、レーヌ中尉の頭の中は間違いなくパニック状態だっただろう。

 最初に提出された提案書は、まさに計算機に数字を入力しただけのものだったので、『君はデータの運送係なのか』とだけ言って突き返した。
 二度目の提案書は最初の提案よりもマシにはなったが、周辺宙域の重力・電磁異常を全く想定していないというトンデモ案だったので、『ここはキベロン演習宙域ではない』と言って突き返した。
 三度目の提案書はある程度形にはなっていたが、いずれも兵器の推進剤を限界まで使い切るという余裕のない案だったので、『白面の書生だな』と言って突き返した。
 四度目の提案書を出した時はほとんど涙が目に浮かんでいたが、やはり推進剤に余裕がない提案だったので、ハッキリと『これだけやって分からないなら、誰かに頼んだほうがいいか?』と言って突き返した。

 そして五度目の今回。上官・部下関係なく多くの人間が、彼女に手を貸しているのがハッキリと分かる提案書だった。発見しただけではデコイと分からせないよう周辺宙域に合わせた重力・熱源出力制御、推進剤を使わずに最大加速し、最終的に自己誘導可能な最高限界速度と十分な推進剤を維持することが出来る中性子ミサイルの射出軌道、そして『無駄のない』機雷原を構築する為の発射制御。四度目とは見違えるほどの完成度だった。

「勉強になったか?」

 全部読み終えたあとで、俺がそれだけ言って軍用端末をレーヌ中尉に返すと、中尉は心底安堵した表情を浮かべて頷いた。彼女の下士官や兵士達に対する態度も、かなり改善されたと
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