第十話 関西巡りその十二
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「あれだけの人になるんですね」
「食事も気を付けてか、俺なんかな」
りんねは腕を組んで言った。
「食えたらな」
「いいですか」
「ああ、もうな」
それこそというのだ。
「それが全てだよ」
「そうなのですね」
「考えて食うなんてな」
そうしたことはというのだ。
「食えればってしか考えてなくてな」
「何でもですね」
「あれば食う」
そうだというのだ。
「そこにあるものをな」
「では今日は」
「たらふく食えてよかった」
りんねは心から思って言った。
「本当にな」
「まず食べることですね」
「俺はな」
「そもそもそこが違うか」
玄馬はりんねの話を聞いて唸った。
「わし等とは」
「大谷選手はな」
「そうだな」
「何もかもが違うな」
「食事も考えて食ってな」
「練習を重ねているのだな」
「そういうの聞いたらな」
向田は畑中を見て鋭い目になって言った。
「こいつもって思うな」
「そうですね」
石田も同意して頷いた。
「こいつはそういうの全然駄目ですから」
「食事制限なんてな」
「ボクサーの基本だっていうのに」
それでもというのだ。
「出来ないですからね」
「それでどれだけ苦労したか」
「全くです」
「いや、あの人は特別で」
その畑中が応えた。
「俺は普通ですよ」
「ボクサーとしては失格に決まってるだろ」
向田は呆れた目で答えた。
「言うまでもなくな」
「そう言います？」
「何度でもな」
それこそというのだ。
「言うからな」
「そうですか」
「大谷選手ならな」
向田はあらためて言った。
「ボクサーになってもな」
「凄いですか」
「ああ」
まさにというのだ。
「世界チャンピオンだよ」
「俺も今度挑戦しますか」
「お前より遥かに強くてな」
そのうえでというのだ。
「そうなってるよ」
「そうですよね」
畑中はこう答えた。
「あの人なら」
「わかってるじゃねえか」
「やっぱりです」
それこそというのだ。
「あの人を見ていますと」
「物凄い向上心と自制心だな」
「俺なんか足元にも及ばない」
「そう思うならな」
向田は畑中に真顔で告げた。
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