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世界はまだ僕達の名前を知らない
決意の章
05th
トイレ男がトイレと出会う前のお話
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たら記憶も戻ってるかも知んねぇしな。安心しろ、そうでなくとも俺がそっちの店長に話付けてやるよ」

「……………………」

 夕食、今晩の寝床、記憶を無くす前のトイレ男の事に加え仕事の調整と、トイレ男は友人氏に頼りっぱなしだった。負んぶに抱っことは正にこの事である。トイレ男は深く頭を下げた。

「おうおう、いいって事よ。俺よりも記憶を無くす前のお前に感謝しな?」

 友人氏はそう言い残し寝室へ向かった。格好好い、と思ったのも束の間、直ぐに彼は「先に水飲も」と戻ってきてしまった。「…………」、今一締まらないが、まぁこれが彼らしさであるとも何と無く解ってきていた。

 改めて寝室へ向かう。「ベッド使え」『いやいやいいよ』「客を床で寝かせたとなりゃぁ俺の沽券に関わる」『主人を差し置いてベッドで寝たとなればこっちの沽券にも関わる』という様な遣り取りの結果、二人でベッドで寝る事になった。

「うわ、狭っ。ツァーヴァス、トイレ床に降ろせね?」

「……………………(首を横に振る)」

「無理かぁ」

 男二人にトイレが乗ったベッドはギュウギュウだ。掛け布団の幅も足りていない。

 せめてとトイレ男はトイレを端の方に置いた。トイレは布団に入らなくても寒くないし風邪も引かないのだ。「…………」、落ちそうになったので慌てて抱き抱える。

「んじゃ、お休みー」

「……………………」

 友人氏がそう言えば、間も無く大きな(いびき)が聞こえてきた。「…………」、早っ、そう思った。

「……………………」

 眠気に襲われつつもまだ完全に寝てしまうまではないトイレ男はぼんやりと天井を眺める。無意識に染みの数を数えて、顔に見えたので止めた。

「……………………」

 前の自分も、こんな風に友人氏と寝ていたのだろうか。

 自信が無かった。話を聴く限り、前のトイレ男は人付き合いが相当上手い様だった。自分はそうやれるだろうか、やれているだろうか。「…………」、できてないな。そう思った。先ずトイレを抱えている時点で落第である。だからと言ってトイレを手放す気は無いが。

「……………………」

 暗闇の中、先程見付けた顔がヤケに自己主張をしている。目を瞑って視界から除いたが、彼はどういう訳か瞼の裏にも居て、どうしても彼のわらう様な表情から逃れる事ができない。

「……………………」

 トイレ男は無理矢理に眠ろうとして、布団の中に潜る。布団を引っ張った時に友人氏の腹が布団からはみ出てしまったが、爆睡する彼に気付いた様子は無い。

「……………………」

 夜が過ぎる。
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