暁 〜小説投稿サイト〜
世界はまだ僕達の名前を知らない
決意の章
04th
迷宮
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の薄い勘しか有るまい。

「……………………」

 或る時、トイレ男は人を見付けた。嫌な人である可能性を恐れ咄嗟に身を物陰に隠す?が、よくよく見ればその人は見憶えの有る人だった。そう、例の酔っ払いおっさんである。トイレ男はぐるぐると回って先程と同じ場所まで戻ってきたのであった。「…………」、時間を無駄にした、そういう気持ちから思わず天を仰いだ。空はまだ青いが、影は更に高くなっていた。

 トイレ男は走る事にした。さっきこの男を見掛けた時とは逆方向に走る。トイレを落とさない様に抱え込みつつ、それが三つの罅を持っている事に今更気付き、それに気を取られ(つまず)きながらも何とか()けはせずに走る。「…………」、焦りは疾うの昔から有った。

「おう、兄ちゃん。何してんだそんな急いで?」

 途中、そう声を掛けられた。顔を向ける。筋骨隆々、顔に大きな傷跡が有り右目の閉じている禿げ男がそこに居た。手には何やらずっしりと重そうな物が入った袋。トイレ男は逃げた。

「あっクソっ待ちやがれ!」

 待つもんか! そうトイレ男は奮起して走る速度を上げた。しかし一方で疲労が激しくなってきていた。ゼェハァと大きく息をしながら走るので大変肺が苦しい。禿げ男を撒く為に出鱈目に角を何個か曲がり、そろそろいいかなと思った所で足を止めた。壁に凭れて休憩する。

「……………………」

 一向に脱出できる気配がしない。どうやら路地裏はトイレ男が想定していたよりも広かった様である。まるで迷宮の様だ。

「……………………」

 トイレ男は火照った額をトイレに当てて涼を取りつつ、『どうここを抜け出すか』より『どうここで安全に過ごすか』を考え始めていた。空はとうとう赤掛かり始めており、直に暗くなる事が予想された。

 段々と体温が下がり、今度は寒く感じてきた。トイレ男は薄い服を掻き集める。余り効果は感じられなかったが、まぁやらないよりはマシな気がした為そうしていた。「…………」、もう今夜はここで過ごそうか、そんな考えさえ頭を過ぎった。どうせ走り回っても出られないのだから、そうしていた方が体力を温存できる?そういう考えだった。

「…………ッ!」

 トイレ男は頬を叩いてそんな怠惰な考えを追い出す。そして立ち上がった。こんな所に居ればいつ禿げ男みたいな奴に()(くわ)すか判ったモンじゃないし、何なら禿げ男に見付かる可能性だって有る。彼に見付かれば碌な目には遭わないだろうと記憶喪失でも判った。という訳で、今からでも危険な奴がうじゃうじゃ居る危険地帯からそこよりは安全な表通りへの脱出を目指す。寒いので走って行こう。

 そんな時だった。

 背中をゾクゾクさせる声が聞こえてきたのは。
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