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世界はまだ僕達の名前を知らない
決意の章
02nd
巨女
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コクコクと頷く。自分に関する諸々は失われた記憶の彼方だから、自己紹介で話せる事は男であるという事ぐらいの物だった。そして、それぐらいは巨女も見た目から察している筈だ。

「う、う、うーむ……うーん…………?」

 巨女は頭を抱え、結構本気でこの男をどうするか考え始めた。チンピラに襲われる青年を一人助けて解決、と思っていたのにその青年が発語不能&記憶喪失という厄ネタを抱えていたので彼女の脳の処理限界を超えてしまったのだ。

「うーむ……」

【どうかしまたか?】

「よし決めた。お前はもう衛兵に預けよう」

 巨女は苦悩の末、他者への丸投げを決めた。

【えいへい?】

「衛兵っつうのは、まぁ泥棒とかチンピラとか、そういう奴らを捕まえる奴らだ。その一環で迷子になった子供を保護したりもしているから、まぁお前も酷く扱われるという事は無いだろう」

 一応迷子だし、と巨女は付け足す。

【悪い奴らを取り締まる……リーフィアさんみたいな?】

「私は衛兵じゃないよ。衛兵は集団の決まりに縛られてアクティブに動けないが、私は個人だ。個人だから動き回れる。詰まり衛兵を超越した存在?それが私」

【?】

 ともあれ、巨女の案内で衛兵の詰所へ行く事になった。

 二人は先ず路地裏からの脱出を目指す。

「そういえば何であんな所に居たんだ?」

【トイレにキスするのに丁度好い場所を探していたんです】

「…………、トイレにキス?」

【はい】

「……キスってアレだよな? 唇と唇がチュッチュするアレ」

【唇と陶器ですが、はい】

 巨女は今直ぐにこの男を放り出したくなっなが、グッと堪えた。偉い。

 二人が出た大通りはトイレ男には見憶えの無い場所だった。トイレ男は物珍しそうに辺りをキョロキョロ見回し、そんな彼(小脇にトイレを抱えている)の様子に周囲は視線を寄せた。何だアイツ。

「つ、詰所はここから直ぐだ」

【ありがとうございます】

「いや。この程度は何でもない、いつもの事だからな」

【いつもこんな事してるんですか?】

「そうだな。毎日の様にこんな事してる」

【どう 大変ですね】

「? そうでもないぞ? 見ての通り私は強いから」

 トイレ男は『どうしてそんな事を』と問おうとしたが、止めた。これは明らかに彼女の中に理由が有っての行動である。そして、その理由は無闇に訊き出されるべき物ではないと思ったのだ。高尚な物なのである。軽々しく触れてはいけない。

「あ、着いた。ここだ」

 巨女が足を止める。彼女が指差す先には、周囲の家よりも一際大きな建物が有った。
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