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世界はまだ僕達の名前を知らない
決意の章
02nd
恐喝
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、取り敢えず自分の体よりこのトイレの方が大事らしい。コイツが救いようの無い阿呆だった場合このトイレに価値は無ぇだろうが、そうでなければそこそこの値段で売れんだろ?」

「あ! そ、そーゆー事っすか!! 流石! 兄貴賢い!!!!」

「フハハハハ、褒め称えろ」

「兄貴凄いっすー!!!!」

 二人の男は暫し笑い合った。

「?んで、それはそれとしてだ」

 弟分に散々褒めさせた事で自己承認欲求を満たせたのか、やや上機嫌になった大男が先程と同じく嗜虐的な笑みをトイレ男に向ける。

「どっちを選ぶ?」

「……………………」

 トイレ男は答えに窮した。

 そもそも、ここでトイレを渡すという選択肢は有り得ない。脳裏に浮かぶまでも無く却下された。トイレ男は無意識に、トイレの事を最上級優先事項として考えていた。こんな下品な男達に渡した所で、即座に売り払われるか価値が出なければその辺に棄てられるだけだろう。それが考えるまでも無く想像が付いたから、トイレ男はその選択肢を真っ先に除去した。

 すると、消去法で男が取るべき行動は『声を出す』という事になる。

「……………………」

 大丈夫だ。声の出し方は憶えている。道を歩き、トイレを抱えるのと同じ程度に簡単な事だ。赤子でもできる。今ここでトイレ男にできぬ道理は無い。

 しかし、

「…………ぁっ、ぅっ…………」

 トイレ男がまともな声を出す事は、叶わなかった。

 声を出そうとすると、声帯を震わせようとすると、心臓が締め付けられている様に感じるのだ。動悸が速まり、全身から汗が噴き出し、体温が上がり、なのに寒く感じる。一寸先も見えぬ暗闇、そこに響く足音を幻視、幻聴した。足音が一つ響く度、心臓が更に強く縛られる。自分は物陰に隠れている。何かここに辿り着ける様な痕跡は残していない。迂闊に情報を漏らしてしまう仲間は居ない。自分は音を出していない。だから自分の居場所はバレていない。その筈なのに、迷う事無く近付いてくる足音に、大男に与えられる物とは別種の恐怖を抱いた。

 そしてその恐怖は、大男から感じる物よりも強かった。

「…………………………」

「…………ふんっ」

 顔面に恐怖を貼り付け、ゼェハァと過呼吸になりそうなぐらい大きな呼吸を繰り返すトイレ男に興が醒めたのか、大男はポイとトイレ男を放った。再びトイレ男の背中が地面に強打される。トイレ男は、腕を突く事も無くトイレを抱えていた。自分の心の拠り所はこれだと言わんばかりに。自らが安心できる要素はこれしか無いと言わんばかりに。

「どっちもできねぇっつーんなら仕方無ぇ。当初の予定通り、身包み剥いでお終いとすっか。ジェン」

「はい兄貴!」

 大男は詰まらなさそうにトイレ男
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