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冥王来訪
第三部 1979年
新元素争奪戦
バーナード星爆破指令 その1
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たまえ」
 参謀総長は直立不動の姿勢になる。
それは、帝政ロシア以来の室内敬礼の態度だった。
「了解しました、同志議長!」
   
 
 クリステル・ココットは、ボン市内にある寂れた喫茶店に呼ばれていた。
彼女を招いたのは、ココットが卒業したアーヘン工科大学の先輩にあたる人物だった。
(アーヘン工科大学は、1870年創設の総合大学である。
戦前までは工科大学だったが、戦後は教養学部・人文学部・経営学部や医学部が追加されて、総合大学になった)
 30代という若さで、BNDのソ連分析部の副部長に選ばれた才媛(さいえん)だった。
ココットは、生真面目で男っ気の一つもない彼女の事を、何処にでもいるオールドミスと思っていた。
 何時ものように、チューリッヒやウイーンに行った土産話でもするものだと考えていた。
当時の西ドイツ社会では、この様な独身のキャリアウーマンが一般的だったからだ。
 2人は食事をしながら、とりとめのない会話をしていた。
話すのはもっぱら副部長で、ココットが聞き役に回るといういつも通りの会合だった。
 少し違っていたのは、「イズベスチヤ」に掲載されたソ連科学アカデミー総裁の記事をキンケル長官に持っていた時の話だった。
いつもは穏やかなキンケル長官に非常に驚いた顔をされて、困ったという。 
 ソ連科学アカデミー総裁が、イズベスチヤに記事を載せるなんて……
きっと、BETAがらみのことかしら。
ゲーレンに話してから、木原に知らせねば……
 そう思ったココットは、副部長の話がひと段落した時を見計らって、公衆電話に駆け込んだ。
一刻も早く真偽を調べるためである。
 電話を終えたココットは、副部長に別れを告げた。
「先輩、そろそろ両親が心配しておりますので帰りますね」
「もう、そんな時間」
 時計は8時を回ったばっかりだった。
この時期のドイツは、9時まで陽が沈まない。
「何が起こるかわかりませんし……
それに、私もきれいな体でお嫁さんに行きたいですから」
 そういう風にあけすけに話すココットに冷やかされても、副部長は上手くあしらった。
「あら、いい相手が見つかったの?
結婚式に呼んでもらえるかしら」
 そう言い返して、軽く流せる心の余裕はあった。
ココットは知らなかったが、彼女は先ごろ知り合ったハンサムな青年実業家と密かな関係を持っていたからだ。
 この事実を知ったのならば、ココットは即座にキンケル長官に連絡したであろう。
なぜならその青年実業家は、情報関係者から機密を抜き出すプロフェッショナルの教育を受けた人物だからだ。
 シュタージ風に言えば、ロメオ工作員。
女性と恋愛関係をもって、その人物をコントロールするという、二重スパイの獲得手段だ。 
 色仕掛け工作は、古代より青史に記
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