第四章、その5の1:気づかぬうちに
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エルフ自治領、タイガの森。今日の朝はどんよりとした曇り空で始まり、森はまるで夜の入って一刻も経たぬばかりのあの暗闇、日と影が入れ替わる時のあの不気味な闇にも似た暗さで静まっていた。しかし底がそれほどまでの厚い雲ではないから、雨が降るという予報は立たないであろう。おそらくではあるが。
例えそうであっても、事前に策定していた予定は急に変更できない。ましてそれが外交的な色に染まった、完全な騎士の御仕事であるならば。
「さて、そろそろ出発だ。準備は良いか、パウリナ?」
「大丈夫ですよー。・・・これ、やっぱ持っていっちゃだめですか?」
「ならん。まだ秋も始まっておらんのに、コートなど必要か?それも毛皮の。持っていくなら雨除けの外套にしておけ」
「ま、まぁそうですよねー・・・はぁ、お気に入りだったのに」
残念がるようにパウリナは肩を落とし、持ってきたコートを戻すために家へと戻っていく。ユミルは困ったように頸を振りながら、もう一人の旅の連れへと話す。
「ケイタク、お前も大丈夫か」
「ええ、出立に何の問題無しです。道中の案内は彼がしてくれるそうです」
「ん、あいつか」
ユミルが目を向けた先に、切り株に座り込んでナイフを研いでいる、少年のエルフが居た。年頃は十を少し超えたばかりか、寡黙に且つ無表情に己のナイフを見詰め、砥石に刃を滑らせている。きぃきぃと鳴るそれに負けぬよう、ユミルは彼に近付いてはきはきとした声で言う。
「あー、道中、宜しく頼むぞ」
「・・・」
「あー、人間だから気に入らぬ部分もあるだろうが、そこら辺の誤解はこれから解消するとしよう。君、名前は?」
「・・・」
「だ、大丈夫か?聞こえてるか?今日は気分が悪いのか?そんなので勤まるのか?」
「・・・」
「・・・お前の母ちゃんでべそ」
「・・・」
一向に無反応である。意味がわからんとばかりに垂れ眉を顰め、ユミルは手袋を付けている慧卓の下へと戻る。よく見れば左手の薬指に指輪を嵌めているようであったが、ユミルは言いたいのはそれではない。
「なぁ、あいつ無愛想過ぎないか?」
「他に誰が居ると?彼、態々自分から案内の役目に志願してくれたんですよ?無口ですけど多分いい子ですよ。それに道案内ですから必要以上の役割を求めるのは酷ですよ」
「それが道中に喋るという役目でも?」
「許容範囲です」
「だがなぁ・・・はぁ、仕方があるまいな。案山子を背負って歩くようなものだ」
「そうです。仕方ないんです。だから彼の分の荷物も持って下さいね」
「はぁ?」
「あ、すいません、俺が持ちます、はい」
「あ、じゃぁケイタクさん、私のも持って下さい!私観光で忙しいからっ!」
「えええっっ、パウリナさんのも!?」
「だめ?」
「ううん、持ってあげますっ
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