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王道を走れば:幻想にて
第四章、その4の2:布石
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たな血として魂の拠り所とするという、所謂不老不死の魔法に執心しておりました。古来では龍の息吹がそれを可能とし、召還魔法とはそれを耐えるがために生まれた魔法であったと考えられております』

 ここに居る者であれば誰もが知っている基礎中の基礎の伝記である。マティウスは続ける。

『時が変わるにつれて召還魔法は他の魔法との交流により、より複雑化し、より多様化した魔法となりました。肉体を棄てるための魔法は、他を呼び、他を捕まえ、或いは他を繋ぐ魔法にも変容し、今ではその定義も変化しております。術式の壁を越えて生命の壁を崩す。即ち召還魔法の性質は自己に留まらず、他に影響を及ぼす点に重要な意義があるのが今日での通説であります』
「どういう事か分かるか?専門外だからさっぱりだ」
「他人の生命に直接影響があると言っているのだ」
「そ、そうなのか。怖いなぁ・・・」
「いや、怖いどころで済む話か?我ながら、恐ろしい世界に足を踏み入れているものだ」

 先程からずっと与太話が後ろでされているが、天文学の権威たる老人は意に介さず、静かに話に耳を傾けている。

『皆様方におかれましては、今日新たに紹介致します召還魔法の技巧にて、更なる魔術への深き関心を抱いてくれたならば、これに勝る喜びは御座いませぬ。是非にも御聞き戴きたい。自己と他者を繋ぐ、命の架け橋を』

 どこかで噴出す声が漏れた。滑稽にも王国の学院長とやらは人類の愛を謳うらしい。老人もそれと同じような感想を抱いたのか、微苦笑を浮かべて頬杖を突く。
 壇上のマティウスはそれらの反応を愉しむように頬を吊り上げた。

『皆様、どうぞお聞き入れ下さい。召還魔法は原点へと戻り、再び、不老不死への一歩に近付いたのです』

 その言葉を聞いて、会場内の空気が一気に静まり返った。呆気に取られるものと、或いは絶句するもの。老人は果たして前者に当たったのか俄かに口を開いたままであり、漸くそれが閉じる頃には、マティウスの狂気極まる論調が展開されていた。次々と語られるそれに人々は瞠目し、ある者は張り詰めた面持ちで会場を後にする。
 だが一方で奇怪なる者も存在する。倫理を玩具の如く扱うマティウスの語りに、どこか恍惚とした表情を浮かべる者達だ。それこそがマティウスが真に臨んでいた反応なのであろうか、持論を語るマティウスは口裂けた笑みで喜色を表す。彼の脳裏に浮かぶ魔術の犠牲者達は一応に能面のような顔をして血の海に沈んでおり、その内の一人が蜥蜴面の男であったのも、彼にとってはいたく自然な事であった。

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