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拝啓、あしながおじさん。 〜令和日本のジュディ・アボットより〜
第2章 高校2年生
ホタルに願いを込めて…… A
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じゃいないし、もう大人だから気にしてもいない。『ああ、そういう人なんだ』って思ってるだけでね。ただ、多恵さんには申し訳ないと思ってるから、できるだけ彼女の思い通りにしてあげたいんだよ」

「純也さん……」

「でも、愛美ちゃんは僕の代わりに怒ってくれたんだよね? ありがとう」

「いえ、そんな。お礼を言われるようなことは何も!」

 愛美はただ、純也さんの境遇にちょっと同情的になっていただけだ。自分は同情されるのがキライなくせに――。

(わたしって勝手だな)

 でも、純也さんはさすが大人だなと思う。子育てをほとんど放棄していたような自分の母親を恨まず、「そういう人なんだ」と達観しているなんて。

「ううん、愛美ちゃんは優しいね。今まで僕が出会った女性の中には、そんな風に怒ってくれた人はいなかったから。一人もね」

「そうなんですか……」

 その女性たちにとって大事だったのは、純也さんが辺唐院家の御曹司≠ニいう事実だけで、彼がどんな境遇で育てられてきたのか、どんな気持ちでいたのかはどうでもよかったんだろう。

「――さて、この話題は終わり。そろそろ部屋に行くよ。そうだ、愛美ちゃん」

 膝をパンッと叩いて立ち上がった純也さんは、荷物を取り上げると愛美に呼びかけた。

「はい?」

「明日、僕に付き合ってもらえるかな? 久しぶりに(けい)(りゅう)釣りに行きたいんだ。よかったら、君もやってみる?」

「えっ? はいっ! ……あ、でもわたし、釣りなんかやったことないですけど」

 愛美が育った〈わかば園〉は山の中だし、釣りに行った経験もない。はっきり言ってド素人だ。そんなド素人が、簡単に釣りなんてできるものなんだろうか?

「心配ご無用。僕が教えてあげるし、ビギナーズラック≠チて言葉もあるからね」

 彼はおどけながら、愛美の心配を払拭(ふっしょく)してしまった。

「じゃあ……、お願いします!」

「うん。じゃ、上に行こうか」

 ――愛美は純也さんと一緒に、二階へ。彼の部屋は、なんと愛美の部屋のすぐお隣りだった!

「ここが純也さんのお部屋……」

 そこは、愛美が使わせてもらっている部屋とはだいぶ違う空間だった。
 シンプルなクローゼットとベッド、そして机と椅子があるだけ。照明器具も他の家具もシンプルで、本当に、眠るか仕事をするかだけの部屋という感じだ。

「うん。殺風景な部屋だろ? 特に、ここ数年はあまり来てなかったから、あんまり荷物は置いてないんだ」

 そう答えながら純也さんは荷物を下ろし、机の上にノートパソコンを置いて電源に繋いだ。

「それ……、お仕事用のパソコンですか? でも今休暇中なんじゃ……」

「そうなんだけどねぇ。
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