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拝啓、あしながおじさん。 〜令和日本のジュディ・アボットより〜
第2章 高校2年生
ホタルに願いを込めて…… @
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お家の事情とか、色々あるんだから」

 例えば医者の家系に育ったら、自分も医学の道に進むことが決められているとか。経営者の一族だったら、後継者にふさわしい婚約者(フィアンセ≠ニ言った方が正しいかもしれないけれど)がすでに決められているとか。
 愛美は施設育ちだし、両親のこともよく覚えていないけれど、珠莉を見てきているから何となく分かる。

「そうですよね……。お嬢さまって大変なんだなぁ。――じゃあ先生、失礼します」

 愛美は上村先生に挨拶をして、スクールバッグを提げて寮までの道を急いだ。――要するに、お腹がグーグー鳴っていたのだ。

「あ〜、お腹すいたぁ。今日のお昼って何だっけ」

 〈双葉寮〉の食堂のメニューは、朝昼夕とそれぞれ日替わりなのだ。好きなメニューが当たった日はハッピーだけれど、キライなものや苦手なメニューが出た日は一日ブルーでたまらなくなる。

 ……と、昼食メニューのことに意識を飛ばしながら早足で歩いていた愛美のスカートのポケットで、マナーモードにしていたスマホが振動した。

「……電話? 知らない番号だなぁ。誰からだろ?」

 ディスプレイに表示されているのは、まったく見覚えのない携帯の番号。愛美は首を傾げながら、通話ボタンを押した。

「もしもし? 相川ですけど、どちらさまですか?」

『恐れ入りますが、相川愛美さまの携帯でお間違いないでしょうか』

 聞こえてきたのは、穏やかな初老と思しき男性の声。

「はい、そうですけど。……あの」

『失礼。申し遅れました。(わたくし)、田中太郎氏の秘書を務めております、久留島栄吉と申します』

「久留島さん? ……ああ、あなたが! いつも何かとお気遣い頂いてありがとうございます」

 まさか、あしながおじさん≠フ秘書から電話がかかってくるなんて……! 普段から何かとお世話になっているので、愛美はまず彼にお礼を言った。

『いえいえ。私はただ、ボスの言いつけに従って自分の務めを果たしているだけですので』

「……そうですか」

(なんか腰の低い人だなぁ。「ボス」なんて、おじさまの方がこの人より絶対若いのに。よっぽど慕ってるんだ)

 ボス≠ニいう言い方にも、彼の雇い主への愛情というか、信愛が感じられる。

『――ところで愛美お嬢さん、奨学金の申請書についてですが。私のボスがキチンと記入・捺印して学校の事務局に送り返したことは、もうお聞きになっていますか?』

「はい、今さっき伺いました」

『さようでございますか。では、お嬢さんの大学進学にも賛成だということは?』

 そのことは、上村先生からは何も聞いていない。

「いえ、それは伺ってませんけど。なんか意外だったんで、ちょっと驚きました」

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