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拝啓、あしながおじさん。 〜令和日本のジュディ・アボットより〜
第2章 高校2年生
純也の来訪、再び。
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今年の夏は何とか農園に行けそうなんだ」

「えっ、ホントですか? 多恵さん、きっと喜んでくれますよ」

「うん。夏のスケジュールがまだハッキリしてないから分からないけど、多分行けると思う」

(今年の夏は、純也さんも一緒……。わたしも行かせてもらえるかな)

 あしながおじさん≠ェ気を回して、そう手配してくれたらいいのになぁと愛美は思った。
 それとも、「男と一緒なんてけしからん!」なんて怒って、許してくれないだろうか?

「――ねえ愛美、純也さんに言うことあったんじゃない? ほら、小説の」

「あ、そっか」

 愛美が純也さんの子供時代をモデルにして小説を書いたことを、彼はまだ知らないはずだ。珠莉から聞いているなら話は別だけれど、それでも本人の口から伝えるに越したことはない。それが誠意というものだ。

 さやかに助け船を出され、愛美は思いきって純也さんに打ち明けた。

「あのね、純也さん。実はわたし、子供の頃の純也さんをモデルにして、短編小説を書いたんです。で、それを学校の文芸部主催のコンテストに出したの」

「僕をモデルに、小説を?」

「はい。……あの、気を悪くされたならすみません」

「いや、別にそんなことはないよ。気にしないで」

 純也さんは、こんなことで怒るような人じゃない。それは愛美にも分かっているけれど、本人に無断でモデルにしたことは事実だ。それは褒められたことじゃないと思う。

「そうですか? よかった。――で、その小説がなんと、大賞を取っちゃったんです」

「へえ、大賞? スゴいじゃないか。おめでとう」

 純也さんは目を大きく見開いたあと、愛美に「おめでとう」を言ってくれた。
 あしながおじさん≠ゥらはとうとう言ってもらえなかった言葉。でも、純也さんに言ってもらえたので、もうそんなことはどうでもいいように愛美には感じられた。

「ありがとうございます。――援助して下さってるおじさまにも手紙でお知らせしたんですけど、何も言って下さらなくて。わたし、ちょっとヘコんでたんです。でも、純也さんに言ってもらえたからそれで満足です」

「そうなんだ……。まあ、彼もどう伝えていいか分からなかったんだろうね。女の子が苦手みたいだし」

「え……?」

(どうしてこの人が、そのこと知ってるの……?)

 愛美は純也さんをじっと見つめる。――一年前に、あしながおじさん≠フことは話したと思うけれど。そのことはまだ話していないはずなのに。

「ええ、まあ、そうらしいんですけど。どうして純也さん、そのことご存じなんですか? わたし、まだお話ししてませんよね?」

 回りくどいのはキライな(しょう)(ぶん)の愛美は、正面から疑問をぶつけてみた。


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