暁 〜小説投稿サイト〜
拝啓、あしながおじさん。 〜令和日本のジュディ・アボットより〜
第1章 高校1年生
二学期〜素敵なプレゼント☆ A
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「あー……、えっとねえ。わたし、このお家をどこかで見たような気がして。来るの初めてのはずなのに」

 初めてのはずなのに、どこかで見たような感じ。それは愛美にとって、不思議な既視感(デジャヴ)だった。

(えーっと、どこだったかなぁ……? う〜ん……)

 愛美は自分の記憶を一生懸命たどっていく。高校に入ってからではないはずだから、多分その前だ。きっと、まだ施設にいた頃――。

「……あ、思い出した!」

「えっ、どこで見たか分かったの?」

「うん。わたしね、施設にいた頃によく理事さんたちの車眺めながら空想してたの。自分があのリムジンに乗って、お屋敷に帰っていくところ。その中に、ここにそっくりなお家が出てきてたんだ」

 ……そうだ。この家の外観は、あの時の空想に出てきた豪邸にそっくりだったのだ。
 あの頃の愛美は、こんな大きな家に住むことに憧れていた。その光景が今、現実に自分の目の前にある。厳密には、友達の家だけれど。

「そうなんだ? けどまあ、ウチは立派なのは外観だけで、中はホントに普通の家と変わんないよ? 珠莉の家の方がずっと(ごう)()なんじゃないかな。あたしも行ったことないけど」

「そうなの? あんまり立派すぎると、わたし()(しゅく)しちゃうな……」

「まあ、そうなるかもね。とにかく中入ろ? ――お母さーん、ただいまぁ! 友達連れてきたよー」

 さやかが玄関のドアを開け、愛美にも「おいでおいで」と手招き。愛美は「おジャマしまーす」と礼儀よく声をかけ、玄関の三和土(たたき)で脱いだウェスタンブーツをキレイに揃えた。ついでに、さやかの編み上げショートブーツも揃えておく。

「さやか、おかえりなさい。あら! 愛美ちゃんね? いらっしゃい」

「はい。冬休みの間、お世話になります」

 出迎えてくれたさやかの母親に(写真を見せてもらっていたので、顔は覚えていた)、愛美は丁寧に頭を下げた。
 彼女は四十代半ばくらいで、髪はサッパリとしたショートボブカット。身長はさやかとほぼ同じくらいに見える。千藤農園の多恵さんや〈わかば園〉の聡美園長に似た、優しそうで温厚そうな顔立ちだ。

「さやかから話は聞いてるわ。ここを自分の家だと思って、(くつろ)いでいってね」

「はいっ! ありがとうございます!」

(さやかちゃんのお母さん、いい人だなぁ)

 きっと彼女は、愛美に両親がいないことも、施設で育ったことも(さやか)から聞いているんだろう。まさに、愛美の理想の母親像そのものだ。

「ねえお母さん。お兄ちゃん、もう帰ってきてんの?」

「ええ、昨日帰ってきてるわよ。大学は冬休みが長いから」

 と、母親が言うのが早いか。


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