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拝啓、あしながおじさん。 〜令和日本のジュディ・アボットより〜
序章
ゆううつな水曜日……
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った。あの物語の中でも、ジュディが院長から同じ内容の話を聞かされていたのだ。

「このデジタル全盛期の時代に変わってるでしょう? でも、あの方のお話では、文章力を(やしな)うには手紙を書くのが一番だって。それに、あなたの成長を目に見える形で残すには、メールよりも手書きの文字の方がいいからって」

「へぇー……。あの、手紙はどなた()てに出したらいいんでしょうか? お名前、教えて頂けないんですよね?」

 多分、何か偽名を指定されているはずだと愛美は思った。
 あのお話の中では「ジョン・スミス」だけれど、あの人は一体どんな偽名を考えたんだろう……?

「一応、仮のお名前は『()(なか)()(ろう)』さんだそうよ。いかにも偽名って感じのお名前でしょう?」

「はい」

 園長先生が笑いながらそう言うので、愛美も思わずつられて笑ってしまう。

「でも、それじゃ郵便が届かないから。宛て名は個人秘書の久留(くる)(しま)(えい)(きち)さんにして出すように、って」

「分かりました。秘書さんからその田中さん≠フ手に渡るってことですね? そうします」

 個人秘書がいるなんて……! どれだけすごい人なんだろう?

「残念ながら、お返事は頂けないそうなの。自分からの手紙が、あなたのプレッシャーになるんじゃないかと心配されてるみたいでね。だから何か困ったことがあった時には、同じように久留島さん宛てにお手紙を出して相談するように、ともおっしゃってたわ」

「はい」

 そして多分、秘書の名前で返事が来るはずだ。それも、今の時代だからパソコン書きの。

「愛美ちゃん。私も田中さんも、あなたの夢を心から応援してるのよ。だからあなたは何も心配しないで、安心して高校生活を楽しみなさい。あなた自身が信じる道を歩みなさい。あなたの人生なんだから」

 園長先生はまっすぐに愛美を見つめ、真剣な、それでいて愛情に満ちた声でそう言った。

「はい……! 園長先生、ありがとうございます!」

 愛美は嬉しさで胸がいっぱいになった。
 ――自分の人生。今まで、そんなこと一度も考えたことがなかったし、考える余裕もなかった。
 いつも弟妹たちや施設のことばかり考えて、自分のことは二の次で。でも、「これでいいんだ」と思ってきた。

 けれど、進路と向き合うということは、自分のこれからの人生と向き合うということなんだと、愛美は気づいたのだ。

 ――ボーン、ボーン ……。園長室の柱に取り付けられた、年季の入った振り子時計が九時を告げた。

「長い話になってしまってごめんなさいね。明日も学校があるでしょう? そろそろお部屋に戻りなさい」

「はい。園長先生、おやすみなさい。失礼
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