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拝啓、あしながおじさん。 〜令和日本のジュディ・アボットより〜
序章
ゆううつな水曜日……
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 でも、「ない」と否定しきれない自分がいて、愛美はソワソワしながら暗くなった一階の職員用玄関の前を通りかかった。
 ――と、そこには一人の人影が見える。
 暗いので顔は見えず、見えるのはシルエットだけ。その後ろ姿から分かることは、背の高い男性だということだけだ。

(……わ、すごく背の高い人だなあ。それに……結構若い?)

 どうしてそう思ったのかは、愛美にもよく分からない。けれど、何となく「この人、そんなに年齢(とし)いってないんじゃないか」と思ったのである。

 愛美が彼の後ろ姿にしばらく見入っていると、外が一瞬パッと明るくなり、愛美はまぶしさに目がくらんだ。外に迎えの車が停まり、ヘッドライトで照らされたらしい。

 次に彼女が目を開けた時、目にしたのは壁に映ったヒョロ長い影――。

(……えっ!? 待って! これって……同じだ!)

 愛美にはピンときた。『あしながおじさん』の本の中に、同じシチュエーションが登場するのだ。
 あの時、ジュディはそのコミカルな影を目にして笑い出した。愛美も笑顔になったけれど、理由は違う。

(もしかして、奇跡……起きちゃうかも!)

 ジュディのような幸運が、自分にも待っていそうな気がして嬉しかったのである。


   * * * *


「――失礼しまーす……」

 家と同じなので、愛美がノックせずに園長室のドアを開けると、園長先生はニコニコ笑って彼女を待っていた。

「愛美ちゃん、待ってたのよ。お座りなさいな。急に呼んじゃって悪いわねえ」

「はい。――園長先生、わたしに何かご用ですか?」

 愛美は応接セットのソファーに、聡美園長と向かい合う形で浅く腰かけた。
 (わか)()聡美園長は六十代半ばの穏やかな女性で、愛美を始めとするここの子供たちにとっては優しいおばあちゃんのような存在である。 

「ええ。あなたに大事な話があるの。――その前に、今しがたお帰りになった方、愛美ちゃんも見かけたかしら?」

「あ、はい。後ろ姿だけチラッとですけど……。あの方、理事さんなんですか? ずいぶんお若く見えましたけど」

「ええ。二年くらい前に理事になられて、この施設に多額の援助をして下さってる方なの。ただ、ご事情がおありだとかで、本名は伏せてほしいって言われてるんだけれど」

「はあ……、そうなんですか」

 愛美は面食らった。先ほど見かけただけのあの理事は、聞いた限りではちょっと変わり者のようだ。
 けれど、園長先生だってわざわざ「あの理事さん、変わっててねぇ」なんて世間話をするためだけに愛美を呼んだわけではないだろう。

「あの方、これまでここの男の子たちには目をかけて下さって、二人ほどあの方のおかげで私立に進学でき
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