暁 〜小説投稿サイト〜
拝啓、あしながおじさん。 〜令和日本のジュディ・アボットより〜
序章
ゆううつな水曜日……
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い。
この本の主人公・ジュディも愛美と同じように施設で育ち、ある資産家に援助してもらって大学に進学。作家にもなった。
――もし、この本みたいなことが自分にも起こったら? 進学問題だって簡単に解決できちゃうのに……。
「……まさかね。そんなこと、あるワケないか」
愛美は一人呟く。これではあまりにも
妄想
(
もうそう
)
が過ぎる。
それは、ジュディが物語のヒロインだから起こり得た奇跡だ。現実に起こる確率は限りなくゼロに近いと思う。
「……でも、ゼロだとも言えないよね」
希望は捨てたくない。自分の
境
(
きょう
)
遇
(
ぐう
)
を
憂
(
うれ
)
いて、手を差し伸べてくれる人がきっと現れる――。いつもそう思っているから、愛美はこの本を読むことをやめられないのだ。
――弟妹たちが食堂から戻ってきたことにも気づかず、愛美が読書に夢中になっていると……。
「――愛美姉ちゃーん! 園長先生が呼んでるよー!」
部屋の外から涼介の声がした。愛美はすぐ廊下に出て、彼に
訊
(
たず
)
ねる。
「園長先生が? わたしに何のご用だろう?」
「さあ? オレはそこまで聞いてないけど。ただ『呼んできて』って頼まれただけだよ」
「……そっか、分かった。ちょっと行ってくるね。ありがと、リョウちゃん」
涼介はこの施設の子供の中で、愛美と一番
歳
(
とし
)
が近いので、話も合うし仲がいい。だからこうして、たまに愛美の呼び出し係にされることもある。
でも、彼は「イヤだ」と言わない。彼にとって愛美姉ちゃんは、血は繋がっていなくても実の姉のような存在だから。姉ちゃん≠フ役に立てることが嬉しくて仕方ないのだ。
――それはさておき。
(園長先生、わたしにどんな御用なんだろ……?)
一階まで階段を下りながら、愛美は首を
傾
(
かし
)
げた。これといって思い当たることがないのだ。
叱られるようなことは何もしていない。……少なくとも愛美自身は。
でも、同じ六号室の幼い弟妹たちの誰かが、理事さんに失礼なことでもしていたら……? それは一番年上の愛美の責任でもある。
(ああ、どうしよう……?)
――でも。もしも、そうじゃなかったとしたら。
(もしかして、わたしの進路の話……とか?)
愛美は今日、学校で担任の先生と面談したのだ。卒業後の進路について、まだ決められないのでどうしたらいいか、と。
その連絡が、園長先生に入っていてもおかしくない。この施設の園長が、愛美の保護者にあたるのだから。
(……いやいや! まさか、そんなこと――)
愛美は首をブンブンと横に振った。
もしそうだとしたら、この展開は愛美の愛読書・『あしながおじさん』のエピソードにそっくりじゃないか!
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