暁 〜小説投稿サイト〜
拝啓、あしながおじさん。 〜令和日本のジュディ・アボットより〜
序章
ゆううつな水曜日……
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たちの手伝いをしている。――手伝い≠ニいっても、お茶を()れたりするくらいのもので、理事たちの前に出ることはめったにないのだけれど。

「――さて、わたしも着替えて手伝おう」

 玄関で靴を脱ぎ、散らかっている子供たちの靴と一緒に自分の靴も整頓してから、愛美は階段を上がって二階の六号室に向かった。
 ここは彼女の一人部屋ではなく、他に五人の幼い弟妹たちも一緒に暮らしている部屋。

 (さいわ)い、この部屋のおチビちゃんたちは食堂でおやつの時間らしく、部屋には誰もいなかった。

(今日は進路のこと話すヒマなさそうだな……。園長先生、忙しそうだし)

 そんなことを思いながら制服から、お気に入りのブルーのギンガムチェックのブラウスとデニムスカート・白いニットに着替えた愛美は、一階に下りておチビちゃんたちがおやつ中の食堂を横切り、台所に入る。

「先生たち、ただいま! わたしもお手伝いします!」

「あら、愛美ちゃん。おかえりなさい。いつも悪いわねえ。――じゃあ、理事会の人たちにお出しするお茶、淹れてもらえる?」

「はーい」

 施設の麻子(まこ)先生にお願いされ、愛美はテキパキと動き始めた。
 急須にお茶っ()を量って入れて、その上からお湯を注ぐ。しばらくすると、いい香りのする美味しい緑茶ができ上がった。

「今日は何人の方が来られてるんですか?」 

「えーっと……、確か九人だったかな。だから、園長先生の分も合わせて十人分ね」

「分かりました」

 ということだったので、上等な湯飲みを十人分食器棚から出してお盆に()せ、急須から出でき立ての緑茶を淹れていく。

「できました! わたし、運んできます!」

「いいから、愛美ちゃん! ありがとう。あとは(わたし)たちでやるから、部屋で休んでていいわよ。晩ごはんの時間になったら呼ぶから」

「……はーい」

 愛美はしぶしぶ(うなず)いた。本当は「お茶を運ぶ」という口実(こうじつ)で、理事たちの顔を確かめたかったのだけれど……。
 毎月こうなのだ。愛美が「お茶を運ぶ」と言うたびに、先生たちに止められる。そのため、愛美はこの施設の理事がどんな人たちなのか、全然知らないのである。

 ――ただ一つ、ハッキリしていることがある。

(……まあ、お金持ちなんだろうな。こういう施設に寄付できるくらいなんだから)

 愛美はそういうお金持ちとか、セレブとかいわれている人たちの生活を知らない。学校の友達にもいないし、どれだけ想像力を働かせても思い浮かばない。

 彼女は幼い頃から、本を読むのが好きだ。想像力も豊かで、将来は小説家になりたいと思っている。その豊かな想像力をもってしても、具体的なイメージが浮
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