一巻
一話
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様《ノブレス・オブリージュ》そのものだった。
シャア・アズナブル。生まれは不明。
孤児院に預けられてから、周りの子供どころか大人と比べても落ち着いた振る舞いで奇異の視線を向けられていたらしい。
頭脳は明晰で、既にジュニアスクールから頭角を現していた。
しかし、いつもふと、何かの拍子に考え込む癖があったらしい。
あれ程の強さを手にしながら、何を思い悩むのか。
わたくしは彼のことをまだ知らない。
わたくしにとって……いや、一般的に子供にとっての異性とは親が始まりだ。なぜなら、親こそが人生で初めて触れ合う異性なのだから。
わたくしにとっての異性の親……父親には、あまりいい思い出はない。
名家に婿入りした父は、母に多く引け目を感じていた、と思う。他者に媚びるその眼差しは、ISが発表されたことでより一層深くなった。
そんな父親を見て、こんな男とだけは結婚したくない、と何度思った事か。
母は強い女性だった。ISが世に知られる前からいくつのも会社を経営し、成功を収めていた。
厳しい人だった。それ以上に強く憧れた女性だった。
そんな二人は、三年前に亡くなった。列車事故だった。
そこからは怒涛の如き人生だった。
自分のもとに残された莫大な遺産を狙う獣たちから守るために、沢山勉強した。その一環で受けたISテストで高評価をとった。
即決だった。
それからもさらなる努力を費やした。いつしか、ブルー・ティアーズの搭乗者に任命され、わが国で見つかったという希少な男性IS起動者をテストする役割を受け、そして。
出会ってしまった。シャア・アズナブル。
その瞳には、屈しない力とか、そんなものは込められていなかった。
慈愛に満ちた、しかし決して弱々しくはない、力強い瞳だった。
「シャア……」
また口に出してしまう。不思議と、胸が切なくなる。
ドキドキと、熱く甘い。不思議な気持ち。
これは一体何なのか。
自分が与えられなかった父性への渇望か、はたまた恋か。
それを確かめるのは、最初に会った時の無礼を謝ってからにしようと、わたくしの冷静な部分が思い起こさせてきてひどく赤面した。
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