九十三 黒雲白雨
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始めていた。
「待っていたわ…」
雨音に掻き消されるほどの声音。
背後からのそれは天使が死を誘うかのような囁きだった。
「貴方が私の前に来ることはわかっていた…」
天使に誘われるかの如く、紙でできた蝶に誘われた仮面の男は面の下で眼を細める。
絶え間ない雨音に包まれる雨隠れの里。
そこから少しばかり離れた水面上で対峙する両者の合間で、不穏な風が吹き抜ける。
「“輪廻眼”…長門の居場所を素直に話す気はなさそうだな」
仮面の下で、ふっ、と笑う。
目の前の存在の装い。自分と同じ黒装束を見て、仮面の男は口許を歪める。
「俺に牙を向けるというのに、まだその衣を着てるとはな…『暁』に未練があると見える」
黒地に赤い雲。
“暁”の証である衣を見下ろして、小南は仮面の男の言い分を一蹴する。
「思い出したのよ…本来の“暁”の在り方を」
小南の身体から、ペリペリ…と紙が剥がれてゆく。
それらは或いは蝶であり、或いは花であり、或いは手裏剣であったが、どれもが仮面の男への殺意に満ちていた。
「この衣にある赤き雲は此処雨隠れに血の雨を降らせた戦争の象徴…この衣は私達の正義」
自らの装いを見下ろしながら、彼女は言葉を続ける。
「長門もそう…“輪廻眼”は雨隠れの忍びである長門が開眼したもの…」
静かに言葉を紡いでいた小南は次の瞬間、感情を露わにさせた。
「“暁”は…“輪廻眼”は貴方のモノではないッ!!」
紙が舞う。降りしきる豪雨を物ともせず、紙の蝶が舞う。
決意を胸に、天使は翼を背に生やし、仮面の男へ飛び掛かる。
凄まじい数の蝶。大量の紙の起爆札。
降りしきる雨の中、己の身と引き換えに彼女は飛んだ。
死の天使としてあの世へ連れてゆく為に。
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