九十三 黒雲白雨
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受け流し、まるで相手の得意な土俵に上がることで完膚なきまでに叩き伏せた。
【口寄せの術】だってナルトならば使う必要もなかった。
それでも【口寄せ】を使ったのは血を流す必要があったから。
あえて自分が血のつながった実の兄だという証を残したのだという己の推測が当たって満足しつつも、どうにも歯痒い心持ちのまま、再不斬はナルトを見遣った。
物言いたげにする再不斬を、ナルトは無言で一瞥する。
なにも言うな、という無言の圧力に根負けし、肩を竦めた再不斬を伴って、ナルトは木を蹴った。
蹴った拍子に葉っぱから滑り落ちた雫が地に落ちる。
既に濡れていた地面の色が益々濃くなり、重く垂れ込んだ曇天にやがて何もかもが包まれていった。
「な、ナルちゃん…」
ナルのアパートを訪問したヒナタが目にした光景は悲惨なものだった。
叩き割られた鉢植え。散乱する土。引っこ抜かれた草花。
鉢植えの破片が散らばる中、ナルが虚ろな瞳でヒナタを見上げる。
いつも明るく澄んだ瞳の青は、今の空模様のように黒く淀んでいた。
それでもヒナタの姿を認めると、その瞳が徐々に光を取り戻す。
ハッ、と我に返ったナルはやがて、のろのろと植木鉢の破片を拾い始める。
自分の手が土で汚れるにも構わず、破片で傷つくにもかかわらず、草花を寄せ集めるナルの手を、ヒナタはそっと握りしめた。
「…ヒナタ…」
「…ナルちゃん、手伝うよ」
おそらく激情のままに鉢植えを叩き割ってしまったのだろう。
散乱する草花は何れも、うずまきナルトがかつて見舞いの品としてナルの病室に飾ったものだった。
しかしながら我に返ると、ナルは慌てて草花を集める。
ナルトがくれた植物と言えど、花に罪はない。
それなのに激情に駆られるまま、鉢植えを叩き割った己を恥じて、ナルは唇を噛み締める。
その頬に乾いた涙の痕を見て取って、ヒナタは安心させるような声音でナルに囁いた。
「だ、大丈夫だよ…ナルちゃん…私が預かってる子達もいるから」
ナルの鉢植えを半分ほど預かってお世話をしていたヒナタは近々、彼女に返すつもりでいた。
だから目の前の花々がもしも枯れてしまっても、ヒナタが預かっているお花達がまだいることを伝える。
ヒナタの優しい励ましに、ナルはのろのろと顔をあげると、やがてその視線を散らばった鉢植えの破片へ向ける。
自分が今まで大事にしてきた花々に、彼女は涙を落とした。
「…ごめん…ごめんってばよ…」
すすり泣くナルの背中を、ヒナタは優しくさすってあげる。
窓外に聞こえる雨音が、泣き声を呑み込むほどの強い雨脚となって降り
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