第一章
[8]前話
「決してな」
「六代様といいますと」
「幕府じゃ」
「足利義教さんですね」
「待て、お主また変わった呼び方をしたな」
信長は後世の日本人の言葉に突っ込みを入れた。
「今な」
「何か」
「だから六代様を何とお呼びした」
「足利義教と」
「人の諱を呼ぶのか、後世では」
「はい、普通に」
「えらく変わったな、わし等の頃はそうはお呼びしなかった」
信長は神妙な顔で述べた。
「決してな」
「そうだったのですか」
「その義教は諱、それでお呼びするとは相当な時でな」
そうであってというのだ。
「源義教様とお呼びするのじゃ」
「足利家は源氏なので」
「そのことは知っておるな」
「その血を引くことは」
「本姓はそちらだからな」
「それで、ですか」
「そうお呼びする、わしなら平信長となる」
自分のことも話した。
「普段こう呼ばれぬ」
「ではどう呼ばれていたのでしょうか」
「織田三郎に決まっておろう」
信長は素っ気なく答えた。
「それか官位でじゃ」
「呼ばれていましたか、私が生きていた頃は普通に諱を使っていまして皆様も諱で呼び合っていました」
「それは絶対にないがな」
「そうなっていました」
「全く違う、そんなことは決してなかった」
信長は言い切った。
「まことにな」
「そうだったのですね」
「うむ。お主達の時代の話はな」
「事実とは違いますか」
「何もかもな」
「そうなのですね」
「少なくとも物語とは違う、そこはじゃ」
「わかっておくことですね」
「そうじゃ、さもないとな」
信長は憮然として話した。
「違うと怒る者もおる、学ぶがよい」
「実はどうなのか」
「こちらの世でな、よいな」
「そうします」
「頼むぞ、ではわしは茶を飲む」
そちらを楽しむというのだ。
「また何かあれば来るのじゃ、しかしな」
「真を学び」
「それから来るのじゃ」
こう言ってその日本人を行かした、信長はこれで済んだが。
後から来た者達はあらゆる時代の先人達はそれは違うと言われ続けた、物語で読んだ歴史と実際の歴史は違うと。そう言われ続けたのだった。
物語で書かれた歴史 完
2025・1・24
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