第三部 1979年
戦争の陰翳
国際諜報団 その3
[2/3]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ってた。
互いに同国人同士を信用せず、異国より支配者を招き入れ、戴ていたロシア社会の宿痾は、ソ連になっても解消できなかったのだ。
しかし、ひとたび身内となれば、ロシア社会では冠婚葬祭の互助はおろか、退職後の面倒まで見るのが一般的だった。
役所の部署は、自分の子飼いの部下や身内で固めて、上司の異動ごとに芋づる式に連れて歩くのが一般的である。
今日のロシア社会でもそういった慣習は引き継がれ、社会の腐敗や汚職の温床となってしまっている面がある。
「お互いに信用などしていない。
だが、同じ目的の為ならば、裏切りはしまい」
KGBには、イワン・セーロフを始めとしてGRUの人員が1953年以降、高級将校として採用された。
だが、KGBの前機関であるNKVDでは、GRUの名だたる幹部を粛正した歴史を持っていた。
またKGBは1918年以来、ソ連指導部の命により、ソ連赤軍を監視し、スパイ活動を行っていた。
そういう経緯があったので、GRUとKGBは相互不信の間柄でもあったのだ。
「俺たちは急がねばならん。
死に掛けの老人に、この国を潰されるような真似は……」
チェルネンコ議長の病気は、KGBでの公然の秘密だった。
病弱だったチェルネンコは、長年の不養生がたたり、慢性疾患である肺気腫に苦しめられていたのだ。
その時、第一総局長室のドアを叩く音がした。
男は受話器を置くと、カズベックの箱に手を伸ばす。
「同志局長!」
入って来た兵士を後目に、男は口付きタバコに火をつけた。
「本日の閣議は、同志議長のご不例より延期となりました」
「また、お倒れになられたか」
「はい!」
男は、壁にかかった歴代書記長の肖像の方を振り返る。
じっとチェルネンコのポートレートを睨みながら、つぶやいた。
「たしかに、急がねばならん!」
KGBに時間がなかったのと同様に、マサキ達にも時間はなかった。
仮にハイネマンが日本国外に連れ出されれば、司直の手が容易に伸ばせなくなる。
そしてソ連の誘拐を成功させてしまえば、日米関係の悪化を招く事にもなる。
そうすれば、マサキの思い描く、世界征服の夢もまた一歩遠くなる。
故に、マサキには時間がなかったのだ。
捜査官の話し声によって、マサキの意識は再び現実に引き戻された。
いつの間にか来てた御剣雷電に対して、捜査官がこのと経緯を説明している最中だった。
「そういう訳でして、警官が現場に着いた時、もぬけの殻でした。
ハイネマンを乗せたと思われる自動車は、宇治川の河川敷に乗り捨てられてました」
御剣は思案の末、瀧本を問いただした。
「瀧元君、警察出身の君はどう思う」
「ハイネマンの宿泊先や滞在日数をしていることから、内部の者が関係していると思われますが」
「その
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]
しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ