九十二 VS木ノ葉
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親指の腹が裂け、皮膚から垂れた血が一筋、鎖をつたってゆく。
次の瞬間。
白煙が立ち上った。
「…ッ、なんだ!?」
視界を埋めるほどの煙がナルトと木ノ葉勢の間に立ち込める。
けれど逃がすものか、と鎖の先をしっかと握りしめていたキバは、煙が晴れゆくにつれて見えてきたソレに、呆れたように唇の端を歪めた。
「ばーかっ!いくらそんなの【口寄せ】したって、逃げられるわけが…」
「……ッ、待て、そいつは…」
キバの言う通り、木ノ葉の忍び達の視線の先に現れたのは、ただの蝙蝠。
普通の蝙蝠と違って巨大な、それこそ、人間ひとり抱えて飛べるほどの大きな蝙蝠だが、既に蜘蛛の巣に捉えられている主を鎖から解き放つほどの力を持ち合わせているはずない。
逆に蝙蝠自身が鎖の蜘蛛の巣に捕まる可能性のほうが高いだろう。
ただの巨大な蝙蝠なのだから。
だが蝙蝠の生態を即座に把握したシカマルが注意を促すより早く。
蝙蝠は鎖にも蜘蛛の巣にも一切触れることもなく。
ナルトだけを上手く鎖の巣から解き放った。
「な、に……」
蝙蝠は獲物の位置を超音波で正確に捉えることができる。
鉤爪に獲物を引っ掛けることで巣である鎖に触れることもなく、自身を救出した蝙蝠の上へ軽やかに飛び乗ったナルトは、愕然とする木ノ葉の忍び達を一望した。
親指から流した血を使い、【口寄せの術】で呼んだ巨大な蝙蝠。
闇夜を思わせる蝙蝠の頭上で、ナルトは「楽しかったよ」と息ひとつ乱さず、微笑む。
反して肩で息をするほど疲労している木ノ葉の忍び達の顔触れを見渡したナルトの瞳が、未だに立ち尽くしたまま動かない波風ナルを捉えた。
「…英雄を気取っていただけか?」
寸前までの穏やかな声音とは打って変わって、押し殺したような低い叱咤が彼女を呼び覚ます。
のろのろ、と顔をあげたナルの瞳の青を見つめ返して、ナルトは更なる追撃を静かに投げた。
「随分と、腑抜けた英雄もいるものだな」
わざとらしい煽り文句。
けれどその一言が、沈んだナルの心に火を灯した。
キッ、と激しく睨んできた彼女の瞳の青が、徐々に明るさを取り戻してゆくのを見て取って、ナルトはふ、と唇に弧を描く。
「次は、期待しているよ」
木ノ葉の英雄の活躍を。
刹那、ナルトの真下で羽ばたく蝙蝠が闇を散らす。
否、巨大だった蝙蝠が小さな蝙蝠へと分裂したのだ。
普通の大きさの蝙蝠の集合体。巨大な蝙蝠に見せかけられていたそれらが、一気に蜘蛛の子を散らすように空を埋め尽くす。
一瞬で夜になった
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