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逆さの砂時計
インナモラーティは筋書きをなぞるのか 4
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年とちょっとしか生きてない私なんかでは決して(はか)り切れない思いを抱えてる。
 口惜しい生き別れも、やり切れない死に別れも、嫌になるほどに経験し、見送ってきたに違いない。
 だとしても。
 誰かは誰かであり、私は私だ。

「貴女が知る誰かは、立ち直れないくらい絶望に堕ちてしまったんですね。不謹慎と思われるかも知れませんが、そこまで強く深く誰かや何かを愛せたその誰かを、心から尊敬します。自分を殺せるだけの熱情など、私は未だに知らないから」
『……そんなもの、知っても辛いだけだ』
「知らないものを知りたいと思うのは、生物の本能なんですよ。それに」

 落ち込んでしまったアオイデーさんの足元に、左手の人差し指を宛がい。
 ちょんっと乗り移った小鳥を右手で包み、胸元でそっと抱きしめる。

「私がいつか人間世界を離れて親しい人達を亡くしても、そこから先には、貴女が居てくれるのでしょう?」

 アオイデーさんの言葉を全面的に信用するなら。
 彼女は私の成長を見守ってくれていた、親も同然の女神だ。
 傍に居てくれるなら、それはそれで心強い。
 食事や寝床はともかく、他は遠慮していただきたいけれど。

『フィレス……』

 心なしか潤んだ瞳に見上げられ、にこりと微笑んだら

「はい、そこまで」

 大きな手に(さえぎ)られた。
 驚いて指先から落ちかけた小鳥を、手のひらでなんとか掬い上げる。

「ここから先は有料です。いっそ、立ち入り禁止です。変態を司る偏執狂な女神サマは接近しないでクダサイ。」

 持ち上げた目線の先で、にんまりと意地悪い笑みを浮かべる師範。
 普段の鋭いつり目が細くなってるせいで、やっぱり悪人にしか見えない。

『……っお……っまえぇ……!』
「目の前に咲いてる花をよく見ろよ。ソイツ、心身共に足掻いてもがいて、諦めても立ち上がって、より高い場所を目指しながら必死で前へ進んでる、掛け値なしのカッコイイ女だろ? 温い湯に浸けて腐らせるには早すぎる。散り際まで美しく咲かせ続けてやること。それこそが俺達の役目なんだと、そうは思わないか?」

 手を外した師範が(あご)で雪山を示し、さっさと行くぞと、再び歩き出す。
 目が点になった私と、

『なっ、何がカッコイイ…… っふぎゃう??』
「! すみません、つい」

 私の両手で、圧死寸前の危機に追い込まれた小鳥を置いて。

『び、びっくりした……。どうした、フィレス?』
「いえ、なんでもないです」

 なんでもない。
 そう、なんでもない。
 あんな褒められ方は初めてだったから、驚いただけだ。
 驚きすぎて、心臓が破裂するかと思った。
 何気なく触れた自分の耳が、熱い。

『……………………………
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