Side Story
少女怪盗と仮面の神父 55
[5/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
間はそれらを全部、自分の都合だけで破壊しているでしょう?」
『それに、ネアウィック村が奏でる音色は総じて心地好い。必要以上に理を捻じ曲げずにいることで良い循環が保たれ、ここに住まう生命に活力が満ち溢れている証拠です。こちらに来るまでの街などでは胸を引き裂かれる思いでしたが、こうした場所が残されていると知り、わずかに救われました』
『貴女にも、聴こえるでしょう? さざ波の声、鳥や虫達の歌、風の囁き、木や草花の語らいが。ここには無駄な物など一切なく、すべてが輪を描いて繋がっている。あらゆるものが産まれ生きて、死を迎えても地へ水へ還り、新たな命を育む糧となる。途切れることなく続き、されど二度と同じ旋律は辿らない、限られた刻の多重奏。これ以上に美しい音楽を私は知りません』
「……そうか。神父様が言ってた音って、命の声そのもの、なんだ」
「そう。歪んだ旋律とは即ち、万物の悲鳴。断末魔よ。悪意を持った人間が幅を利かせる王都で生まれ育ったあの子にとって、人の手がほとんど入っていないネアウィック村は、良い療養所になったことでしょう。……ここまで言えば解るわね? 貴女の音が私と同じく綺麗なのは、一聖職者として……あの子の親友としても、少々残念だったわ。叶うなら貴女に、彼を孤独から救ってもらいたかったのだけど」
狂った音は、手前勝手な好意や、欲望や、害意の表れ。
つまり。
音が綺麗な自分の本心には、彼に対する興味がまったく無い。
彼を見ていたい、近付きたい、知りたいと思う程度の関心もない人間に、彼は決して救えない。
「……すみません」
(これから聖職者になろうとしてる人間が、すぐ近くで苦しんでた人間にも気付けなかったとか。いや、気付けと言われても相手が相手だけに難易度が高すぎるけども! でも……考えてみれば、誰もが苦悩を表に出してるわけじゃないし、平気な顔して抱え込んじゃう人って結構いるよね。多分私は、アリア信徒は、アーレスト神父みたいな人が抱える苦しみにこそ気付いて、寄り添えるようにならなきゃいけないんだ)
世界の意識を変えていくには、上っ面だけの救済じゃ意味がない。
「元はと言えば、人間からの好意を怖がってるアーレストが悪いんだから、貴女が謝る必要は全然ないのよ。私だって、あの子が唯一自発的にしつこくまとわりついていた相手が男性だった時点で、匙を放り投げてるし」
「しつこ……? そういう相手がいたんですか?」
「今は遠くへ行ってるけどね。アーレストの前で音を大きく高くする人間が多い中、たった一人、小さく低くなる希少種だと言っていたわ。だからか、傍に居ると落ち着くんですって。美姫の名を欲しいままにしているこの私を怖がっておいて、男性にはがっちりべったり絡みつくのよ? 憎たらし
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ